シーラじいさん見聞録

   

ペルセウスは子供にぶつかりそうになりながら、「オリオンを知っているのか!」と叫んだ。子供はペルセウスの勢いに気圧されたのか、「はい。一緒にいました」とあわてて答えた。
「じゃ、あの建物の中にいたのか?」
「そうです」
「それじゃ、オリオンは?」
「オリオンは、まだそこにいます。それで、言付けを預かってきました」
「詳しく話してくれ」
子供はすべてを話した。「オリオンらしい。今の話をもう一度話してくれないか」
「そのつもりです。シーラじいさんだけでなく、リゲル、ミラ、ベラ、シリウス、その他のものにも話すつもりです。オリオンがそうしてくれと言っていましたから」
「みんなの名前も知っているのか。すぐに行こう」ペルセウスは、みんなが集まる場所に向かった。子供は懸命に追いかけた。
そこには誰もいなかったが、しばらくすると、シリウスが帰ってきた。
ペルセウスはシリウスに来客を紹介し、他のものをすぐに集めてくれないかと言った。
シリウスは、「すぐに戻れ」というクリック音を四方八方に飛ばした。
それを聞いたものは、また、同じ合図をするようになっていた。それで、何十キロ離れていても連絡できるのだ。オリオンから聞いていたものがすべて揃った。
子供は、青い目をしたものがゆっくり姿をあらわしたとき息を飲むほど驚いたが、これがシーラじいさんだとわかった。オリオンから聞いていたとおりだった。
今までは、シャチがいると一目散に逃げたので、目の前にいるのが恐ろしかった。
しかし、リゲルはこの仲間のリーダーだと自分に言い聞かせた。隣にいるベラもやさしそうだ。
ペルセウスは、子供を紹介し、オリオンの言付けをみんなに話すように促した。
子供はもう一度、今までのことを話した。
「それはごくろうじゃったな。オリオンが元気だと聞いて安心した。あなたも辛い目にあっただろうから、ここでゆっくり休みなさい」シーラじいさんはやさしい声をかけた。
「それにしても、オリオンらしいな」誰かが言った。
「そうだろう?おれもそう思った。両方から攻めれば、かならずオリオンを助けられる」
「この人と同じことをすれば助かるかもしれない」
「しかし、オリオンはニンゲンの言葉を話すと思われている。それなら、海に戻さずに、どこかに隔離されるだろう」
「そうか。カモメにはこのことを言って、今まで以上に見張るように頼もう」
そのとき、カモメが来た。「ちょうどよかった。あなたたちに頼みたいことがある」リゲルが言った。
「何でしょうか。その前に、アントニスから手紙を預かってきました」とベラに渡した。
「ベラ、読んでくれないか」シーラじいさんは、ベラに言った。
ベラは、英字新聞の文字を使ってアントニスへの手紙を作るようになっていたので、文字も読めるようになっていたのだ。もちろん、アントニスも、手短に、おして大きな字で書いてくれていた。
「わかりました」ベラは、ペルセウスに手紙を広げてもらって、手紙を読んだ。
「何ていうことでしょう!アントニスは、オリオンを助けるために童話を書いたのですが、その内容が、オリオンが考えたこととよく似ています」
話の筋を聞くと、「それはすごい」、「アントニスたちにもオリオンを助ける知恵を出してもらおうじゃないか」
「ちょうどよかったわ。アントニスが近々シーラじいさんに会いたいと言っています。
そのとき連れていきたい人がいるそうです」みんなはベラに近づいた。
「その人はアレクシオスという名前で、オリオンとイリアスのこと書いてくれた新聞記者だそうで、童話も一緒に考えてくれたようです。
とても信頼ができる人物で、オリオンを助けることだけでなく、クラーケンのことや海底にいるニンゲンのことでも手助けしてくれると思います。
もちろん、オリオン以外のことは言っていませんので、一度シーラじいさんの目で見てほしいのです。アントニスはそう書いています」
「リゲルはどう思うかな?」シーラじいさんがリゲルに聞いた。
「アントニスがそこまで言うのなら大丈夫ではないでしょうか」リゲルは答えた。
「それじゃ、会おう。いつでも来てくだされと返事をしてくれるか」ベラは、新聞から、「OK」を探した。ペルセウスがそれを破り、カモメに渡した。
3日後、海岸の近くいるようにしていたペルセウスが、「アントニスたち3人がボートに乗って沖に向かっている」と報告をした。すぐにシーラじいさんに連絡が行った。
「初めての人間でも大丈夫か」アレクシオスはアントニスに聞いた。
「大丈夫です。あなたのことは手紙で紹介していますから」
「ふーん。オリオンには仲間がいて、その仲間にはシャチやマグロ、クジラがいるということ。また、仲間を統率しているのはシーラカンスだということなど、何一つ信じられないんだよ」アレクシオスは泣きそうに言った。
「そうでしょう。ぼくも、最初そうでしたから」
「でも、どうして、ぼくが行くことを、シーラカンスたちが知っているんだ?」
「会えば分りますよ」
「きみが、童話の中に入りすぎているのではないかと今でも思っているんだ」
「そうかもしれません。でも、仲間だけでなく、ニンゲンをも助けたいと願っているものを、この目で、この耳で知ったのです」
「ぼくも、みんなを知っているよ」イリアスも言った。
アレクシオスは、首を振りながら、「いや、いや」とつぶやいた。
「ほら、誰か来ましたよ」アントニスの声に、アレクシオスがふりむいた。

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