シーラじいさん見聞録

   

「アントニスはどんな様子じゃたかな」シーラじいさんが心配そうに聞いた。
「連行されていくときは抵抗などしませんでした。その後はわかりませんが、別の部屋に連れていかれるときも変わった様子はありませんでした。
閉じこめられたとき、4,5人のニンゲンがいなくなってから、ドアを突いてみました。ガタンと音がして、ドアのところで、小さな声で何か言っていました。しかし、意味はわかりませんでしたが、落ちついた声でした」
「アントニスは、カモメがいることがわかったようですね」ベラが言った。
「そうじゃろな」シーラじいさんが答えた。
「手紙を描いていないのは、書くものを取りあげられているのでしょうか」
「早く助けないと、イリアスがたいへんなことになるぞ」シリウスが叫んだ。
「窓を石で割ることはできませんか?」リゲルが提案した。
「誰が割るのじゃ」
「イリアスです」
「イリアスか。できるかな」
「木から窓までどのくらい離れていますか」リゲルは、カモメに聞いた。
「10メートルぐらいあると思います」カモメが答えた。
「イリアスにできるだろうか」ペルセウスが言った。
「聞いてみましょうか」カモメが提案した。
「どうやって聞くのですか?」
「身振りでやってみます」
カモメは飛びたった。イリアスに付きそっていたカモメに、イリアスの様子を聞き、そして、リゲルの提案を話して、イリアスにどう説明するか話しあった。
ようやく話がまとまった。1羽のカモメが、石をくわえて木に上った。そして、口で投げた。
イリアスは、しばらく見ていたが、にこっと笑って、「OK」と言った。カモメたちは顔を見合わせてうなずいた。
イリアスは、まず上りやすい木に上った。1羽のカモメがどの窓か教えるために、そこに飛んでいった。
投げやすく、そして、相手に見つかりにくい木を決めなければならない。イリアスは、いくつかの木に上ってみて、一番上りやすい木から下りてくると、カモメに、「OK」と答えた。8羽いたカモメはホッとした表情になった。
それから、カモメは、海岸から石をくわえてくることにした。林にはあまり石がなかったからだ。また、早く窓ガラスを壊すためには角張ったものを探酢ことにした。
石が集まってくると、イリアスは、10メートル先に落ちていた枝を立てて、当てる練習を繰りかえした。
カモメは、2羽のカモメは、それをくわえて戻すようにした。
敷地の前で、動きを見ていたカモメは、この2,3日で一番トラックや車の出入りがあることを、シーラじいさんに伝えた。
「アントニスに関係があるのじゃろか。アントニスがどこかへいくということはないですか」と聞いた。
「トラックに乗せられてどこかにいくということがないかぎり、アントニスは、この敷地にいます」
「それじゃ、イリアスのことはくれぐれも頼みます」
「わかりました」
夕日が沈み、建物や林が薄暗くなってきた。イリアスは木に上ろうとしたが、カモメは止めた。まだ、アントニスが監禁されている部屋の明かりがついていないからだ。
「まだ、どこかで調べられているから」カモメは、イリアスに通じなことはわかっていたが、一生懸命話した。
イリアスは、「OK」と答えた。カモメがアントニスを助けるために懸命に動きまわっていることがわかっているからだ。
ようやくその部屋の明かりがついた。木の上にいたカモメはイリアスに、合図を送った。
イリアスは、木に上った。長さ1メートル、高さ40センチぐらいの薄暗い明かりがついていた。
イリアスは、ポケットに入れていた石を出し、窓をじっと見た。そして、投げた。
ガンという音がした。しかし、窓ではなく、壁に当たったようだ。
さらに、狙いをすませて投げた。しかし、窓には当たらない。投げたときに枝が揺れるので、うまく投げられないのかもしれない。
両方のポケットに二つずつ入れていた石はなくなった。イリアスがいる枝に、石を4,5個ぐらい入る窪みがあり、カモメはすでに石を運んでいた。
イリアスは、それをぎゅっとつかんだ。そして、投げた。30分以立ったが、窓には当たらない。
カモメは、イリアスの服を引っぱり、一度休むように合図を送った。しかし、イリアスはそれに従わなかった。
窓の近くにいたカモメが、「壁に当たると影が動く。アントニスは、誰かが助けにきていることがわかっているようだよ」と、イリアスに言った。
イリアスは、理解できなかったが、別のカモメが、「見ろ!」と叫んだ。
窓に影が映っていた。
「アントニス!」イリアスは小さく叫び、休むことなく投げつづけた。
何回かすると、カーンという音がした。窓ガラスに当たった音だ。「やったぞ!」カモメが叫んだ。
それから、立て続けに当たるようになった。「ひびが入ったぞ」近くにいたカモメが言いにきた。
1羽のカモメはイリアスを止めた。警報が鳴ったりしないかじっと耳をそばだてた。しかし、敷地は、静まりかえったままだ。
すると、影が、ガラスの割れ目を剥がそうとした。しばらくすると、窓にはガラスがなくなった。カモメは、ロープをくわえて窓に投げいれた。ロープがピンと伸びた。

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