シーラじいさん見聞録

   

「あれが、オリオンがいる建物か!」リゲルが、独り言のように叫んだ。
「そうです。まちがいないと思うのですが、実際に見ていないので少し心配ですが」カモメが言い訳をした。
「上から見えないのですか」ベラが聞いた。
「建物しか見えません。ときどきトラックが出入りしますが、すぐに奥の建物の中に入っていきます」
「建物の地下に何かあるのじゃな」シーラじいさんが言った。
「アントニスはまだですか」シリウスが聞いた。
「まだです」
「まさか怖気づいたわけじゃないだろうな」ペルセウスが言った。「来たら、ほんとの仲間だ」ミラも心配しているのだろう。
翌日の早朝、カモメが急いできた。「アントニスが来ました。イリアスもいます!」
「イリアスもか!大丈夫か」
「今、道を外れて、林の陰から様子を見ています」
次のカモメが、紙を持ってきた。「アントニスからです」
シーラじいさんは、「『海洋研究所』と書いてある。しかし、塀が高く中は見えない。もう少し様子を見る」と、アントニスが書いたとおりに読んだ。
1時間たったが、アントニスからの手紙はない。
誰も、何もいわず、重苦しい雰囲気に包まれた。ベラが言った。「シーラじいさん、この字をアントニスに渡してはいけませんか」
それは、「BACK」という字だった。ベラが、新聞の中から見つけて、ペルセウスに破らせたものだった。
ベラの考えでは、敷地の「BACK」、すなわち、海に面している崖には、大きな木が無数にある。そこに上れば、塀がいくら高くても、敷地内はすべて見えるのではないか。しかも、枝が密生していて見つかりにくいだろうというのだった。
「そうじゃな。おまえが言うとおりじゃ」
早速、近くに待機していたカモメにそれを託した。しばらくして、アントニスとイリアスは崖のほうに回ったとカモメが報告してきた。
次の報告では、様子をうかがっていたアントニスは、細い木に上ったとのことだった。
ようやく手紙が来た。「トラックが一台来た。しかし、ここから死角になっているので、どこから入ったか全くわからない。それで、夜、塀から中に入る。それで、出入りするためのロープがほしい」
「なるほどな。それじゃ、おまえたち、ロープを探してくれないか」
全員、アントニスが使うのにふさわしいロープを探した。こちらにいたカモメは海岸を探した。
ようやくペルセウスが岩に引っかかっているロープを見つけた。リゲルたちが、それを外した。20メートルぐらいあるようだ。
アントニスとイリアスのそばにいるカモメも来て、10羽全員で、崖の上まで運んだ。
その後、カモメは、全員背後の崖に集まり、次々報告してきた。
それをつなぐと、アントニスとイリアスの様子はすべてわかった。
まず、夜を待つ間、アントニスは、イリアスに何か話しかけた。そして、暗くなると、敷地内は照明がついたが、崖のほうは暗いままだということがわかった。
アントニスは、立ちあがり、ロープを敷地に投げいれた。それから、細い木に上ってから、枝を伝って、太い木に乗りうつった。
そして、様子を見てから、塀の上にうまく飛びのることができた。すぐにロープを伝って中に降りた。すると、イリアスがすぐにロープを引きあげた。このことを、イリアスに言っていたのか。
アントニスは、建物の背後から横に回った。しばらく進むと、突然、けたたましいベルが鳴った。
アントニスは、戻ろうとしたが、すぐにニンゲンの足音がしたので、左に走り、建物と建物の間にある木の陰に隠れた。4,5人の足音は通り過ぎた。そして戻ろうとしたとき、犬の鳴き声がした。
ずっとつきそっていたカモメ3羽が飛びあがり、窓ガラスの桟に止まって様子を見た。
アントニスは、4,5人のニンゲンに囲まれて、どこかへ連れていかれた。
「カモメから報告を受けたシーラじいさんは、「何もなければいいが」と案じた。そして、「イリアスはどうしているじゃろ?」と聞いた。
すぐにイリアスにつきそっていたカモメが来た。ベルは聞こえましたが、イリアスは、何か起きたなとわかったようですが、動揺している様子はありません。こういうことがあるかもしれないと、アントニスから聞いていたからかもしれません」
「それはよかった。しかし、また子供じゃ。しっかり様子を見ていてくだされ」シーラじいさんは、カモメに頼んだ。
「わかりました」
アントニスについていたカモメが1羽来た。「仲間が1人、アントニスが連れていかれた建物に紛れこむことができました。それの報告を待っています」
もう翌日まで待つしかない。翌日の早朝、シーラじいさんは、カモメに聞いた。
「イリアスはどうしている?」
「わしらに何か話しかけてきますが、意味がわからないので、適当に返事をしますが、態度からも、そう慌てていません」
「食べるものはどうしている?」
「これも、わしらがあちこちで失敬してきたものを食べています」
その時、建物の中に入ったカモメが帰ってきた。
「幸い、この一番後ろの建物の中に収容されています。昨夜は4,5人のニンゲンと長い間いましたが、その後、一人で小さな部屋に入り、すぐに鍵をかけられました。一晩中明かりがついていました。わしは、朝ニンゲンが建物に入るときに出てきました」

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