シーラじいさん見聞録

   

シーラじいさんはどう返事をしようか迷った。
オリオンを捕まえたものの背後には、何か大きな組織があるように思える。画家をめざしているという、この善良そうな青年の前途に何かあってはいけない。しかも、身寄りのない甥の世話をしなければならないというのだ。
しかし、アントニスは、イリアスを抱えながら言った。「オリオンは、海を守るためだけでなく、海底にいるニンゲンを助けるために、どんな危険も顧みようとせず前に向かいました。
今度も、ぼくを信頼してくれたばかりか、逃げようとすれば逃げられたのに、イリアスを助けるために戻ってきた。ぼくもイリアスも、このことは一生忘れません。
ぼくは、あなたたちの仲間になって、いっしょにクラーケンやニンゲンと戦いたいのです。ぜひ仲間に入れてください」
「そこまで思ってくださるか。しかし、わしらは、誰かと戦おうとしているのではなく、誤解を解こうとしているだけじゃよ。
わしらは、カモメが見張っている場所に、まちがいなくオリオンがいるかどうかだけを知りたい。それなら、それの手助けをしてくださるか」
「わかりました。もしいたら、オリオンを海に戻すようにかけあってみます」
「それは早計じゃ。相手のことがわかってからにしてくれんか。今はじっとその機会を待つほうがいい」
「おっしゃってくだされば、何でもします」
「その時はお願いします。ただ、個人の仕業ではなさそうなので、無理はしないようにな。あなたの命に危険が及ぶことになる」
「わかりました」
「それでは具体的な打ちあわせをしておきましょう」シーラじいさんはそう言うと、カモメから詳しい場所を聞いた。
「この島の北西に大きな町があるそうじゃな」
「キサモスのことですね」
「そこから、まだ西に行くと、突きあたりの崖の上に建物があるそうじゃ」
「キサモスには何回も写生に行きましたから、なんとかわかると思います」
「しかし、そこに行くのには狭い道しかなく、途中に何ヶ所かバリケードがあって、運転手が鍵を開けるそうじゃ」
「それは大丈夫です。ぼくには車がないので、キサモスからは歩いていきますから」
「イリアスはどうされる?」
「ぼくの知り合いに預かってもらいます」
「それから、カモメが、あなたを守ることになっておるが、わしらに伝えたいことがあれば、紙に書いてカモメに渡してくださらぬか」
そして、シーラじいさんが、そのメモを見て了解すれば、カモメがうなずき、反対をすれば、首を横に振るということも伝えた。
アントニスは、イリアスをつれてすぐに戻った。
そして、アントニスが小さくなると、リゲルたちがやってきた。
「あいつは信用できるニンゲンですか?」
「真面目な青年じゃと思う。それから、カモメから重大な報告がある。すまぬがもう一度話してくださらぬか」シーラじいさんは、カモメに頼んだ
「わかりました」カモメはそう答えると、リゲルたちにもう一度話した。
死体を沖まで運んで捨てているという報告を聞くと、みんな言葉を失った。
シーラじいさんは、オリオンは乱暴な扱いを受けていないはずじゃと言ってから、「アントニスは、そこに向かってくれた。しかし、2日はかかるだろうだろう。わしらも行こうと思うがどうじゃろ?」とみんなに聞いた。
「長居は無用です。すぐに行きましょう」リゲルがすぐに答えた。そして、「おまえたちとはまた会えるだろうが、しばらく会えない」と、心配そうに聞いていたイルカの子供たちに言った。
彼らは、すぐに「ぼくらも行く」と主張した。「今はどうかわからないが、あそこには、強いボスがいて、余所者は絶対に入れなかったんです。
でも、パパが、そのボスと友だちだったから、遊びにいっても、誰からも追いだされなかったんです。もし話がややこしくなったら、ぼくらが話をしますから。
それに、パパやママのことがわかるかもしれないから、ぜひ連れていってください」その声真剣だった。
「それならお願いするよ」リゲルは答えた。
そして、無用な争いを避けるために、クレタ島から相当離れて離れることにした。
「どうして、死体は、切りきざまれているのでしょうか?」ペルセウスが聞いた。
「何か実験をしているかもしれないな」
「どういう実験ですか?」
「機雷の発見などにイルカを使うようじゃな。しかし、それ以上はわからぬ」
「オリオンは、言葉を話すということで捕まったのですね」ベラが聞いた。
「多分そうじゃろ」
「なぜクラーケンが、ニンゲンを襲うようになったかを聞きだそうとしているのだよ」シリウスが口を挟んだ。
今度は、地中海をUターンして北東に向かった。警戒しながら進んだが、イルカの子どもたちが心配しているようなことは起きなかった。
「このあたりもクラーケンの騒ぎが起きていたようです。全く誰もいません」様子を見てきたミラが言った。
そのとき、カモメが1羽下りてきて、「あそこです」と言った。
しかし、崖の上には大きな木が無数にあって、何も見えなかった。
じっと見ていたベラが、「風が吹くと、木の間に白いものが見えます」と言った。

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