シーラじいさん見聞録

   

2人は両側に別れた。もし何かが突然あらわれても気づかれないようにするためだ。
しばらく行くと、穴は急激に狭くなってきた。ミラがようやく通れるぐらいだ。このままでは、2人にとっても、何か起きてもすぐに対応できないように思われた。
しかし、2人は、そのまま進むことにした。5,6分はその状態であったが、また広くなっていった。2人と、両側の壁に沿って進んだので、お互いの距離で、それがわかるのだ。
「オリオン、暗闇が少し薄くなったように思わないか?」リゲルが合図を送ってきた。
「まちがいない。きみの姿が少しわかるようになった」
2人は、誰からも気づかれないように、細心の注意を払って進んだ。
目を凝らすと、水の中に赤や黄色の光があるような気がした。赤や黄色の光を発するものがいるのだろうか。
もしそうだとしても、相手は気づいていないようだ。動きがないからだ。
光は、少しずつ強くなっていった。暗闇も、いつのまにか海面から日光が届かなくなったぐらいの暗さになってきた。
「どんな怪物がいるのだろう?」リゲルが聞いてきた。
「わからない。しかし、右のほうにいるようだ」オリオンが答えた。
「そうだな。どうする?」
「もう少し行こう」
左にいたオリオンは右に行った。そして、2人は、上下になって、壁に沿って進んだ。
そうしないと、姿が見えてしまうかもしれないからだ。
赤や黄色、また別の色もあるようだが、それらの光がはっきり見えるようになった。
それらは、右から差しているようだ。しかし、誰もいそうにない。それなら、あのあたりから、別の穴があるのだろうか。しばらく行くと、壁は切れていた。光はかなり強い。
すると、曲がったところに、光る怪物がいるのか。2人は、心臓が飛びだすかのように感じた。
頭だけをゆっくり出した。目がくらむようになった。体を引きこめた。しかし、動きはない。
もう一度頭を出した。壁一面が赤や黄色、青、紫などの色で輝いていたのだ。まるで、日光に輝くさんご礁のようだった。それが、どこまでも続いていた。
あまりの美しさに2人は見とれていた。「すごいじゃないか!」「海底の下に、こんな世界があるなんて」
2人は、怖さを忘れて、そのまま進んでいった。そして、上に向かった。
「あっ」2人は同時に声を上げた。突然海は切れていたのだ。つまり海面があったのだ。しかも、海水がないので、輝く岩は、赤や黄色だけでなく、青や紫、金、銀など、あらゆる色が輝いているのがわかった。
上を見あがれば、高い天井も、同じようにまばゆいような光を発していた。
暗黒の世界に、こんな場所があるとは。二人は、何度もそう思った。
しばらく横や上を見ながら進んでいたが、「オリオン、空気があるぞ!リゲルが叫んだ。
オリオンも、少し頭を上げて呼吸をした。「ほんとだ。ぼくらの海と変わらないじゃないか」
「海底の奥にも、『海の中の海』があったのだ」
「しかし、ここは、『海の中の海』より、空気は重いようだ」
「ここが『海の中の海』なら、誰かいるはずだ」
「ぼくらのように空気が必要なものがいるということか」
「もう少し見てみよう」
「リゲル、シリウスとベラが心配しているはずだ。ぼくが、もう少し様子を見ているから、きみは、2人のところへ戻ってくれないか」
「一人で大丈夫か?しかし、2人ともここを離れるわけにいかないしな。
わかった。ぼくが行って、ここのことを話してくる。それから、すぐに帰ってくるから」
リゲルは姿を消した。オリオンはゆっくり体を上げて遠くを見た。誰もいない。
目がくらむほど光を放っている岩壁に沿って進んだ。そして、岩の窪みがあれば、そこに入って、あたりを窺った。誰もいないのを確認すると、また進んだ。
何回か様子を窺っていると、遠くの岩場に、何か動いているのがかすかに見えた。
やはりいたのだ。オリオンは目を凝らして見た。4つ、5ついるようだ。しかも、それらが、あらわれたり、消えたりしている。しかし、それ以上はわからない。しかし、水に入らなくても大丈夫なのだろうか。
そのとき、「オリオン!」という声が聞こえた。オリオンが驚いて振りかえると、誰かいるようだが、多くの色の光でわからない。
「ぼくだよ。ペルセウスだ」そう言いながら、オリオンの目の前に来た。「ペルセウス!生きてくれていたか。でも、どうしてここにいるんだ。みんなで探していたんだよ」
オリオンは、声をひそめてだが、喜びをあらわして言った。
「ぼくも、探してくれているだろうとわかっていたんだけど、どうしようもなかったんだ」
「どうしたんだ?」
「前にうまく進めないんだ」
「けがでもしたのか?」
「いや、けがはしていないけど、どこかおかしくなって、前に行こうとすると、体がぐるぐる回ってしまうんだ。『安全な場所』にいたお兄さんのようだ。ここを出ようとしたのだけど、体が岩にぶつかってしまうんだ。
それで、あせっても仕方がない、あのお兄さんのように、みんながぼくを探してくれるだろうと考えを変えて、その間に、みんながびっくりするようなことを調べておいてやろうと思ったんだ」
「そうだったのか。今、あの岩壁の上に、何か動いているように思ったんだが、あれも知っているのか?」
「知っているとも。きみが一番びっくりするものだ」

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