シーラじいさん見聞録

   

リゲルから細かい注意を聞きながら、みんなは、いよいよ戦いがはじまるのだと思った。
オリオンが話しはじめた。「今気がついたんだが、怪物は、この奥に一族がいると言っていたね。それは、ぼくらにとっては、大きな助けになるかもしれない」みんなオリオンに近づいた。
「つまり、ぼくらはまだ遭遇していないけど、怪物や子供が言っていたようなものがいたら、その奥には、他のものはいないことになるじゃないか」
しばらく誰も声を出さなかった。
オリオンが自分の考えを話そうとすると、シリウスが叫んだ。「そうか!クラーケン以外のものがいたら、その穴は探さなくていいことになる」
すると、他のものも、オリオンの考えがわかったようで、堰を切ったように話しはじめた。
「ペルセウスも、そこにはいないということだ。クラーケンを追いかけているはずだから」リゲルが言った。
「これでがむしゃらに探さなくてもいいのね」ベラも安心したように言った。
「ただ、ミラには申しわけないが」リゲルが言った。
「大丈夫だ。そうしたら、ぼくは、クラーケン以外ならすぐ引き返したらいいだな」
「そうだ。しかし、穴が狭くなっていると気がつけば、すぐに戻ってきてくれ。小さなぼくら調べるから」
「了解」
「シーラじいさん、お聞きになったように、ペルセウスを探す準備はできました。細心の注意を払って作戦を実行します」リゲルが力強く言った。
「そのようじゃな。しかし、危険を感じたらすぐに引き返せ。それが勇気じゃ」
みんな深くうなずいて、穴に向かった。
途中、リゲルは、穴の入り口の岩の形状を、体の側面に当てて覚えるように言った。これは、みんな感覚がちがうので、教えられないのだ。
また、今までの経験からも、暗闇に何かの気配を感じることは相当疲れるので、1日に1つの穴を限度すること、そして、ある程度調べて何もいないのなら、しばらく立ってから、2回目の調査をすることもつけくわえた。
ようやく、最初の穴に入ったあと、次の穴の側面を、自分の体で擦って、岩の形状を頭に入れた。
そして、センスイカンを集合地点にした。一つ目の怪物はどこかにいるのだろうが、出てこなかった。
ミラは、分かれている穴の一つに入り、そのまま奥に進んだ。しかし、誰もいない。
引きかえしてから、別の穴に向かった。ときおり、体を四方の壁に当てて大きさを測るようにしながら進んだ。しばらく行くと、かなり狭いことがわかった。もし無理に入っても出られなくなる恐れがある。
ミラは、みんながいる場所に戻ってきて、そのことを言った。リゲルたちは、その穴を調べることにした。その間にミラは海面で休息をした。そのようにして、一つ一つ調べていくのだ。
あるとき、ミラがあわてて帰ってきた。そして、「いた!」と叫んだ。
暗闇の中では遠くのものが見えないので、前から伝わる波を感じながら進むのだが、そのときは、何の動きも感じられなかったのに、何かがドンとぶつかった。ミラは驚いて、戦う体勢を取ったが、相手は驚いたのかどこかに逃げたようだった。
「クラーケンか」と、誰かが聞いた。
「いや、かなり大きいがクラーケンの部下のような硬い体ではなかった。しかも、あの怪物のように体からは光は出てなかったから、別のものかもしれない」
「やはりいるんだな」
「クラーケンでないようなので、そこは探す必要がないだろう」
「やはり、ここには別の世界があるのだ」
その後、ミラが、何かを感じて戻ってきたのは3回あった。どれも、しばらくその場にいたが、向かってこようとはしなかった。
全員で話しあって、もしクラーケンの部下であれば、すぐさま攻撃してくるはずだ。だから、そこは、もう調べなくてもいいとなった。
あるとき、ミラが帰ってくると、「「どうもおかしい」と言った。
「誰かいたのか?」
「いや、誰もいないが、暗闇の向こうが明るいような気がする」
「まちがいないか。あの怪物のように、目が光ったりするものではないか」
「ぼくも、そう思って、かなり進んだ。しかし、穴が狭くなって、もし、そいつが来ると危険だと思って、ひきかえすことにした。
それで、しばらく見ていたが、どうも光が大きいようだ。ひょっとして、体全体が光るもので、しかも、大勢集まっているような大きさなのだ」
「それじゃ、ぼくらが行く」リゲルがすぐに言った。
ミラは案内した。そこはハオリムシがいる最初の穴から12番目の穴だった。
目を凝らしてみたが、どうもわからない。しかし、ベラは、「まちがいなわ」と言った。
「向こうに何があるんだ?」シリウスが聞いた。
「それはわからないけど、相当広い場所が光っているようよ。暗闇全体が光っているから」
「そうか。それじゃ、行こう」シリウスが言った。
「いや、ぼくとオリオンが行く。きみらはここで待っていてくれ。ミラは戻ること」
シリウスとベラは了解した。指示に従わないと、チームワークが乱れ、作戦そのものが大きな危険にさらされるからだ。
「30分戻ってこないと来てくれ」リゲルは、そう言うと、オリオンとともに奥に向かった。
シリウスとベラは心配そうに2人を見送った。

 -