シーラじいさん見聞録

   

「おい、早くしろ!命がほしくないのか!」怪物の声が響いた。オリオンはリゲルを見た。
自分としては、怪物の言うようにしたほうがいいと思ったが、すぐここを出ることもできる。リゲルの決断を待った。リゲルもオリオンを見た。決まった。
「お願いします」オリオンは叫んだ。
怪物は、「わしについてこい」と言って動きはじめた。全員巨大な影についていった。
しかし、前に自分たちを攻撃してきたときの俊敏さから比べれば、ひどく遅い。泳ぐこともせず、歩いている。どうしたことか、これで間に合うのか。
しかし、怪物は、センスイカンが横たわっている場所まで来ると、センスイカンに体をぶつけた。そして、そのまま前に進んだ。影の動きから判断すると、センスイカンは軽々と動いたようだ。
「おまえたち、この中に入れ。この奥に、わしらの一族がいる。しばらくここで待っていろ」怪物は、そう言うと、その場を離れた。
岩とセンスイカンの間には大きな穴があったのだ。まるでセンスイカンが、穴を隠すようになっている。
全員言われるままに入った。中は急激に広くなっているようで、ミラもなんなく向きを変えることができた。そして、みんなが入ったことを確認すると、穴の奥を警戒した。
しかし、誰かが来るような気配はなかった。
「怪物の一族ってすごいじゃないか!」シリウスが小さな声で言った。
「あの怪物、足が20本ぐらいありそうよ。それを動かして前に進んでいる」ベラも小さな声で応じた。
「シュー、シューと鳴っていたな」シリウスが聞いた。
「足を動かしたときにこすれているように思う。頭が重たいのよ。
それから、顔のあたりをちらっと見たけど、真ん中が大きく膨れている。あそこを岩にぶつけたようね」
「すると、怪物が言っていることは本当なのかもしれない」
「奥から、何か出てきたら、ぼくが相手をするから、みんなは前を見ておいてくれ」ミラが言った。
その声で、一気に不安が高まった。暗闇の奥に何かいないかじっと目を凝らした。
長い時間が立ったような気がした。すると、前のほうから、「おい、出ていったぞ」という声がした。
その声で、全員すぐに穴を出た。とにかくここを出なければという気持ちがたまっていたのだ。そこに、怪物の影があった。
「やつらは、しばらくは帰ってこまい。その間に仲間を探せばいい」怪物は穏やかに言った。
「ありがとうございます」オリオンは礼を言った。そして、「今出ていったのは、センスイカンからニンゲンを引きずりだしたものですか?」と聞いた。
「そうだ。わしが、これを叩きつぶしたとき、やつらが礼を言ったのをおぼえている。
しかし、言葉を交わしたのは、後にも先にもそのときだけだ。
もっとも、他のものがいるかどうか知らん。あいつら以外、ここを出入りするものはいないかなら」
「わかりました。それでは、少し準備をして、すぐに戻ってきます」
みんな口々に礼を言って、第1の穴に向かった。第1の穴に来たとき、オリオンは、「ちょっと待って」と声をかけて、止まった。
すると、「大丈夫だったか?」という声が聞こえた。ハオリムシの子供だ。
「大丈夫。きみに少し聞きたいことがあるんだ」オリオンが答えた。
「ぼくも話したいことがあるよ」ハオリムシの子供は、少し笑って言った。
「今、ここを誰か出ていったか?」
「ぼくも、それを知らせたかった。4,5頭いたようだ」
「どんな姿・・・ごめん」
「かなりでかいよ。今までここを出入りするものに気を取られることなどなかったが、依然感じた波と同じだったから、何回も出入りしているやつのような気がする」
「やはりそうか」オリオンは、そう言ってから、怪物とのことを話した。
「怪物は悪いやつじゃなかったんだ。まずは安心だね」
「まったくそうだ。しばらく帰ってくるけど、何かあったら教えてくれ」
全員、海面に急いだ。しばらく休んでから、シーラじいさんがいる場所に向かった。
そして、今までのことをすべて話した。
「おまえたちの考えはまちがってなかったようだな」シーラじいさんは満足そうに言った。
シーラじいさんに認められて、意気が高まったので、みんな大声で話しはじめた。
「あの穴のどこかに、クラーケンがいることがわかっただけでなく、ニンゲンとクラーケンは、ぼくらが知る以前から、関わりがあったことも分かった」シリウスが口火を切った。
「しかも、最初は、頻繁に行き来していたのに、最後には、センスイカンを破壊するようになった。しかも、奥に連れていかれたこともわかったわ」ベラも負けていない。
「あの子供が言うように、ペルセウスを探す条件は揃ったのだ」ミラも言った。
「そうだ。あとはどう探すかだけだけど、これがむずかしいぞ」オリオンも少し興奮していた。
「シーラじいさん、どうすればいいでしょうか」リゲルが聞いた。
「これからも多くの分かれ道があるじゃろが、もし穴を出ることができなかったら、命にかかわる。
絶対に迷わないようにしなければならない。そのためには、分かれ道の岩の形状を覚えることじゃ。それを頼りにすればいい」
「まずミラに調べてもらう。そして、前方の様子の報告を受ける。ぼくらは、途中に細かい分かれ道はないか調べる。しかし、そこには入らないこと。もし何かあっても助けにいけないから」

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