シーラじいさん見聞録

   

「何だ?」
「ニンゲンだ」
「ニンゲン!」オリオンは、もう一度遠くを見た。
「そうか。それで、水に入らないのか」
「たまに泳ぐことがある。でも、楽しくなさそうだ」
「みんな裸なのか?いつも服を着ている動物だが」
「ぼくも、最初、白い体をしているので、今まで見たことのないものだと思ったよ。
でも、しゃべっている言葉や動きからニンゲンにちがいないと確信するようになったが、どう思う?」
「ニンゲンにまちがいないようだ。何人いるの?」
「今日10人になった」
「えっ?」
「さっき一人死んだんだ。ぼくがここに来たときはすでに横になっていたが、だめだったようだ。
それで、残ったものが、死んだものを岩の間に入れている。ぼくは、これで2回見た。どうして、そんなことをしているのかは知らないが」
「弔いだろう」
「弔い?」
「ぼくらも、仲間が死ねば、海底に沈んでいくのをみんなで見送ることがあるんだ。
ニンゲンは、陸で生活しているから、穴を掘って弔うと聞いたことがある」
「それなら、どうして、こんなところにいるのだろうか?」
オリオンは、少し考えて言った。「少し心当たりがある。きみも、動かなくなったセンスイカンがあるのを知っているだろう?あそこから大勢のニンゲンが連れだされたことがあったそうだ」
「そんなこと誰から聞いたんだ?」
「センスイカンの近くにいる一つ目の怪物だ」
「あの怪物!あれが教えてくれたのか!」
「そうだ。リゲルとぼくに向かってきたので戦ったが、おまえたちのような小さいものに負けたのは悔しいが、仲間を探すのなら、自由に出入りしてもかまわないと言ってくれたのだ」
「仲間って?」
「きみのことだよ」
「それなら、ぼくが見つかった以上、どうなるんだろう?」
「一度聞いてみるしかないな」
「でも、あの怪物がぼくらの仲間になったら、怖いものなしだ。これはおもしろくなってきたぞ」
「他にどんなものを見たのか?」
「体の半分ぐらいが頭で、だんだん尻すぼみになっているものがいる。いつも眠そうな目をしているが、何かニンゲンにもってくるんだ。何だろうと思って、近づいて見たことがある。ニンゲンの新聞や雑誌のようだった」
「そうか。ぼくらも、シーラじいさんにニンゲンのことを調べてもらっているように、やつらも、当のニンゲンに読ませているんだな」
「クラーケンが、ニンゲンを攻撃しているのと関係があるのだろうか?」
「かもしれないが・・・」
そのとき、「オリオン」というかすかな声が聞こえた。オリオンも、「ここだ。ペルセウスもいるぞ」と、声をひそめて答えた。
すぐに波を感じたかと思うと、「ああ、ペルセウス。無事だったか」その声とともに、リゲルが近づいてきた。
リゲルの後ろにシリウス、ベラもいた。ミラの大きな影も見えた。みんなペルセウスのまわりに集まってきたが、顔の表情でうれしさをあらわすだけだった。
ペルセウスは、みんなを見回して言った。「みんな、迷惑かけてごめん。少しだけ様子を見たくて、中に入ったんだけど、方向がわからなくなったんだ。あせればあせるほど、どんどん奥に入ってしまって」
「そうか。でも、こんなに美しい場所なら、ずっといてもあきないね」シリウスが笑顔で答えた。
「破片でももってかえりたいわ」ベラも、シリウスに合わせた。
「そうか。これと関係があるかもしれない」オリオンが突然言った。
オリオンは、怪訝な顔をしている仲間を壁のそばに集めて、遠くを見るように言った。
「あれは?」リゲルが聞いた。
「ニンゲンだ」オリオンは答えると、ペルセウスから聞いたことを話した。もちろん、ペルセウスも多くのことをつけくわえた。
誰も、そちらをじっと見た。10人近くのものが、岩のほうに向かってすわっていた。まだ弔いは続いているのだろう。
しばらくして、「ニンゲンはどうして逃げないのだろうか?」シリウスが聞いた。
「ニンゲンには、水に入るための特別の服がいるが、海底近くは、ぼくらでも慣れるまでに時間がかかったように、ものすごい水圧だ。それに耐えるものがなければ不可能だ」
「それなら、ニンゲンは、ここから一生出られないのだろうか」
「ここにいることを、他のニンゲンが知っているのかどうかだろう」
「怪物は、連れさられたニンゲンを助けに別のセンスイカンが来たとは言っていなかったな」リゲルが言った。
「オリオン、さっききみが言ったことを説明してくれないか」ミラが聞いた。
「この色とりどりに輝く場所が、謎を解くヒントになるかもしれないと思ったんだ」

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