シーラじいさん見聞録

   

声とともに振動が伝わってきた。かなり近くにいるようだ。2人は身構えながら、あたりを見渡した。
声が聞こえなくなると、漆黒の闇が広がっているだけだ。怪物の在り処の目印になる赤い目が見えない。
それを隠すために、後ろを向いているかもしれないので、2人は、尾を合わせるようにして、どこから攻撃されてもすぐに立ちむかえるようにした。
そのとき、オリオンの目の前で、何かが動いたように思えた。
オリオンは、「大丈夫でしたか?」と叫んだ。気勢を制されたのか、また静かになった。
しばらくして、シュー、シューと音がしたかと思うと、「たっぷりお礼をしたいが、目が見なくなったので、それもできない。ドジを踏んだものだ」独り言のように言った。
「ぼくらは話を聞きたいだけです」オリオンはかまわず続けた。
また静かになった。そして、声が聞こえてきたが、オリオンに答えようとしているものではなかった。
「ここで誰も通さないのがわしの仕事だ。わしは、それを完璧にやってきた。わしより大きなものでも追いかえしてきた。それが、このざまだ。
うそだと思うのか。ここにいるのもわしが叩きつぶした」
大きな波を感じた。近づいてきたのか。2人は後ずさりした。
「センスイカンのことを言っているのだろうか?」リゲルが、オリオンに合図を送った。
「そうだろう」
「さっき、目が見えなくなったとか言っていた」
「岩にぶつかったとき、赤い目をつぶしたかもしれない」
「好都合だ。それなら、このまま奥に行こう」
「まて。ぼくに任せてくれ」
オリオンは、リゲルを止めると、近くにいる怪物に向かって叫んだ。
「こいつをなぜ叩きつぶしたのですか?」
怪物は正気に戻ったように言った。
「こいつか?奥にいるものの意にそぐわないことをしたようだ」
「じゃ、こいつは、ここに紛れこんできたのではないのですか?」
「ちがう。余所者で、唯一ここの出入りを許されていた」
2人は互いの顔を見た。「おまえたちが、探しているのは、こいつか?」
「ちがいます」
「こいつは妙な生き物だ。叩きつぶしたが、中には別のものがいた。すると、奥のものが、そいつらを引きだし、奥に連れていった」
「そいつらは生きていたのですか?」
「もちろんだ。おとなしくしていたが」
「その後、どうしたのですか?」
「知らん。帰ってこないから、まだ奥にいるだろう」
「ぼくらの仲間もそこにいるかもしれません。そこに行きたいのですが」
怪物は黙った。2人はじっと待ったが、何も言わなくなった。
一度引きあげようかと考えたとき、シュー、シューという音がしたかと思うと、すぐ声が聞こえた。
「わしは、ここで余所者をいれないようにしている。どんなものを通さなかった。それがわしら一族の任務であり、誇りだ。
しかし、赤く光る目が台無しになってしまったから、もう相手を脅かすことができぬ。
相手を追いつめる力も衰えてきた。
一人息子が一人前になれば、わしは、ここを去る。その間に、小さなものを見逃しても仕方あるまい」
「ありがとうございます。見つかればすぐに出て行きます」オリオンはすぐに声を出した。
すると、怪物も言った。「この奥にいるものは、おまえたちの何倍も大きいぞ。
また、おまえたちぐらいのものでも、一癖も二癖もある。とても勝ち目はない。
おまえたちの仲間が入ったまま帰ってこないのというのなら、平らげられたと思うのが大人だ。
しかし、子供ながら、勇気があるおまえたちの望みとならば、見て見ぬふりをするが、自分たちで納得すれば、ここには二度と来るな」
オリオンとリゲルは、礼を述べてから、、あらためて来ると言った。
オリオンとリゲルは、ミラ、シリウス、ベラとともに、シーラじいさんに話をした。
「センスイカンから出てきたのは、ニンゲンだろ?」シリウスが言った。
「そうだ」リゲルが答えた。
「たとえ、海に入るためのものを着ていても、あんな深い海に耐えられるものでしょうか?」シリウスは、シーラじいさんに聞いた。
「わしが知っているかぎり無理じゃと思う。
しかし、1万メートル以上耐えられるものができているのは事実らしいが、ニンゲンが着ることができるのかどうか」
「怪物の復讐かもしれないわ」ベラが叫んだ。
「復讐?」
「あなたたちに恥をかかされたから、奥に入れて復讐しようとしているのかもしれないわ」
「そうかもしれない」シリウスが同調した。
「でも、中に入るのが怖いから、そんなこと言っているんじゃないよ。
逆に、早くペルセウスを助けに入りたいんだ。何百回も出入りしなければならないから、怪物の術中にはまったふりをしておこうと言っているだけなんだ」
「わたしも、それが言いたかったのよ。迷ったら、自分たちで決めることを再確認したかったの」
「オリオン、どう思う?」リゲルが聞いた。

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