シーラじいさん見聞録

   

「そうだ。ぼくが話をするつもりだ」オリオンが答えた。
「赤く光る一つ目の怪物なんて地獄の生き物だ。話しなんてできるのか?もし、できても、ぼくらの考えがつうじるのか?」
シリウスは、「海の中の海」にいたころは、いつもおびえていた。訓練に耐えきれずに、逃げたことさえあった。
しかし、同じ種類のオリオンと仲良くなって、大きく成長してきた。
自分より大きな敵にもひるむことはなくなった。次どうなるかではなく、次どうするかを学べば、大きな戦力になると、リゲルもオリオンも期待していた。
しかし、あのような恐ろしいものにどう向かっていくかわからないのは当然だった。
オリオンが、「話をしてみる」と平然としているのが信じられなかっただけなのだ。
「ミラでも手強いやつだ。ぼくらにはどうしようもない。
しかし、やつをかいくぐって奥に行っても、すぐにペルセウスが見つかるかどうかわからない。
それより、自分たちの味方にするようにしたほうがいいと思うんだ。シリウスが言ったように、言葉が通じるかどうかわからないが、一度やってみるよ」
オリオンは、シリウスだけでなく、ミラやベラの不安を解消するために丁寧に話した。
「しかし、みんなで行くと、やつを刺激するだろうし、仲間を呼んできているかもしれない。様子を見て無理ならすぐ帰ってくるよ」
「オリオンが言ったとおりだ。きみらも、ここでペルセウスを見つける方法を考えておいてほしいんだ」リゲルも、リーダーとして、残る者に対して指示を与えた。
そして、2人は穴に急いだ。
第一の穴に近づいたとき、オリオンは言った。
「リゲル、ぼくが話をするから、きみは離れていてくれ。もしぼくに何かあったら、かまわず戻って、シーラじいさんに伝えてくれないか」
「ぼくも横にいるよ」
「一人のほうが警戒しないと思うんだ」
「わかった。でも、気をつけてくれよ」
第一の穴を通った。ハオリムシの子供は声をかけてこない。目は見えないが、相手の動きで、声をかけるときかどうかわかるのだろう。
第二の穴に入った。全く音一つしない。磁場を感じながら、ゆっくり前に進んだ。
もう少しいけば、センスイカンがある場所だ。2人とも感知能力を全開にした。
そのとき、暗闇がぱっと赤くなった。
2人は、一瞬たじろいだが、オリオンは、すぐそれに向かった。そして、「怪しいものではありません。仲間を探しているだけです。話を聞いてください」と短く信号を送った。
その信号を受けて、赤い一つ目の怪物は、少し立ちどまったように見えたが、一気にオリオンに向かってきた。
オリオンは、上に逃げた。また足が体を直撃すればたいへんなことになると思ったのだ。
怪物はオリオンを追いかけてきた。
こうなったら仕方がない。リゲルも、追いかけて背後から体当たりした。しかし、がーんという音とともに撥ねかえされた。
ミラは、怪物の体は硬いもので体を覆われているようだ。唯一、赤く光る目のまわりだけが柔らかったと言っていたが、その通りだ。しかし、その目を攻撃することはできない。
オリオンは、天井近くで、するっと抜けだして、リゲルがいるところに戻ってきた。
「攻めるところがない。どうしよう?」リゲルが聞いた。
「もう一度話してみる。それでもだめなら戻るしかない」
2人は赤い目を探した。かなり高いところにいた。そして、あちこち動いていたが、2人を見つけたようだ。また向かってきた。
オリオンは、「話を聞いてください」と叫びながら近づいた。しかし、赤い目は目の前に迫ってきた。
今度は横に逃げた。リゲルが来て、「オリオン、やつを天井におびきよせよう」と叫んだ。
「了解」
赤い目がこちらに向かってくる。
オリオン上に向かった。リゲルも急いだ。赤目は、2人を追いかけてきた。
作戦通りだ。「さあ、行くぞ!」2人は速度を上げた。赤い目も速度を上げた。その距離はみるみる狭まった。
天井すれすれに2人は左右に分かれた。2人の体は天井をこすった。そのとき、どーんという音がしたかと思うと、衝撃で2人の体が飛ばされた。
あわてて体勢を立てなおして、お互いを探した。
「大丈夫か」「大丈夫」「一度ここを出よう」「よし」2人は出口に急いだ。
2人は穴を出て、海面に向かった。そして、息を整えた。
「すごい音だった」
「まさしく岩と岩がぶつかる音だった。いくら怪物でも、本物の岩に勝てないと思うが、どうだろう?」
「もう一度行こう」
2人は、また第2の穴に入り、そのまま進んだ。
どこからかシュー、シューという音がしてきた。2人はさっと分かれて、音の場所を探した。
すぐ近くで、「おまえたち、また来たのか?」という声が響いた。ぞっとするような声だ。
「誰だ?」リゲルが叫んだ。
また、シュー、シューという音がするだけだ。飛びかかったりしないか警戒しながら、次を待った。
「先ほど、おまえたちにお世話になったものだ」

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