シーラじいさん見聞録

   

「何をしやがる!」怒声が飛んだ。5頭はリゲルを避けて進もうとしたので、「ちょっと待ってくれ」と叫びながら、1頭ごとにぶつかっていった。
それでも、シャチは前に出ようとした。
冷静だったシャチも、「それなら、おまえたちも来るんだ」と大きな声を出した。
「鳥が、ニンゲンがいる場所を教えてくれているかもしれないんだ。海の者と空の者が一体となって、ニンゲンを海から追放せよという指令が来ている。だから、おれたちは急いでいる」
リゲルは、「あの鳥たちはおまえたちに関係ないんだ」と言いながら、シャチの行く手をふさいだ。
他のシャチが、「相手にするな。鳥を見失ってしまう」と穏やかなシャチを急がせた。
リゲルは執拗にぶつかっていった。オリオンも、リゲルを助けるために、シャチにぶつかっては、自分のほうに意識を向わせた。5頭全員がリゲルに向っていっては、リゲルに勝ち目がないからだ。
2頭がオリオンに怒りの矛先を向けた。「もう許さん」と叫びながら、オリオンに向ってきた。
もう少しで追いつかれそうになったときに、体をぐっと沈めた。そして、一気に向きを変えた。
2頭は激しくぶつかった。怒りはさらに高まって、向きを変えると、オリオンをまた追いかけた。
何度もそうしていると、2頭のシャチは追いかけてこなくなった。
オリオンは、リゲルを助けるために戻った。しかし、静かだ。どうもおかしい。遠くへ引きよせたのか。オリオンは、様子を窺いながら上がっていった。
やがて黒い影が一つ見えてきた。動かない。誰だ?
オリオンは、そこから、100メートルぐらいがなれた場所に上がった。シャチにはちがいない。じっとしているが、激しく息使いをしているのがわかるほど近づいた。リゲルだ!
リゲル!オリオンは相手が近くにいるかもしれないが、まっすぐリゲルに向った。
リゲルは、じっと目をつぶっていたが、オリオンの声を聞くと目を開けて、「オリオン」と辛そうに答えた。
「リゲル、大丈夫か。やつらはどこへ行った?」
「鳥たちの姿が小さくなっていったので、あわててそっちへ行ったようだ。『鳥はどこにいる?』とか言っていたように思う。
もう少し邪魔をしようとしたができなかった。前のやつに一撃を食らったとき、そのまま後ろにさがったので、別のものに攻撃されてしまったようだ。
一瞬、頭が真っ白になった。すぐに意識が戻ったので、やつらに向っていこうとしたが、動こうとしても動けなかった」リゲルは体をぐったり横たえた。
「そうか、ぼくがもう少し引きつけておけばよかった」リゲルは悔やんだ。
「いや、きみのお陰で時間稼ぎができたんだ。オリオン、ミラたちの様子を見にいってくれないか?」
「きみを置いていけない」
「いや、体が動くようになればすぐに追いつくから」
「それはできない。また別のものが来るかもしれない。そうだ!あのカモメに助けてもらおう」
リゲルはそう叫ぶと、その場で何回も飛びあがった。しかし、誰も下りてこないし、空には鳥は全く見えなかった。
「リゲル、ぼくがきみを押していくよ。そのうち、カモメや仲間が見つけてくれるだろう。やつらが近づいてきても、ミラがいるから安心だ」オリオンは、そういうとリゲルを押しはじめた。
リゲルも自分で動こうとしたが、どうしても力が入らない。
オリオンは、ときおり四方を見たが、鳥はどこにもいなかった。その後、数羽固まって飛んでいるのがときどき見えたが、オリオンがジャンプしても気づかない。オリオンたちの任務について知っている鳥ではなさそうだった。
2日後、カモメたちも飛んでこない。どうしたんだろう。何かあったのか。
オリオンは、常に様子を窺いながらリゲルを押した。
夕方、微かな信号が聞こえてきた。信号が高くなるほうを見つけながら進んだ。
やがて、それがオリオン、リゲルと言っていることがわかってきた。
「リゲル、聞こえるか?誰かおれたちを呼んでいるぜ」オリオンはリゲルに声をかけた。
じっと聞いていたリゲルは、「あれはミラじゃないか」と叫んだ。
「まちがいない」オリオンも大きな声で言った。そして、「ミラ、こっちだ」と信号を返した。
ミラの信号はだんだん大きくなっていった。そして、20メートルぐらい前が高まったと思うと、黒々としたものが姿をあらわした。そして、こちらを笑って見ている。
「ミラ、ありがとう。みんなは?」オリオンが聞いた。
「みんな無事だよ。お兄さんもようやく安全な場所に入ることができた。パパはかなり苦労をしていたがね」
「どういうことだ?」
「なかなか認められなかったようだな。でも、長老が認めたんじゃないかな。おれはお兄さんを守っていたのでよく知らないが」
「そうか。でも、よかった。リゲルが怪我をしているんだ。きみが来るのを待っていたんだ」
「どうした?」
「シャチを食いとめるために、1人で向っていったんだ」
「ちがう、ちがう。オリオンがやつらを分散してくれたのに、ぼくがへまをやってしまった」リゲルがあわてて口を挟んだ。
「鳥が全く見えないがどうしたんだ?」オリオンが聞いた。
「あのカモメは、仲間がおれたちの上にいれば、やつらの目印になることがわかってすぐに離れるように言ったんだ。その後も何かしたようだ。
そうだ、シーラじいさんも心配しているぜ」

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