シーラじいさん見聞録

   

リゲルは、オリオンに目配せした。オリオンはうなずいた。
リゲルは、じっと自分を見ているペルセウスとシリウス、ベラに声をかけた。
「きみたちの気持ちはよくわかる。シャチの家族は仲がいいと、シャチであるぼくも当然知っているが、ぼくらの友だちの家族はとりわけ仲がいい」
リゲルは息子を見た。そして、話を続けた。
「それなのに、家族の一人がいなくなってどれほど悲しいだろうと思ってくれたんだね。
でも、きみらがよく知っているように、シャチの体は大きいだけでなく、もっと大きな者にも向っていくこともある。もしきみたちに危害が及ぶとたいへんだ。
きみたちに何かあっては困る。しかも、今日明日に出発しなければならないときだ。
お兄さんを家族全員で探しているということだが、こういうことははじめてのようで、どう探したらいいかがわかっていないようだ。
それで、ぼくとオリオンで、家族にどう探すかを教えてこようと思うんだ。
こういうことは、まずシーラじいさんの許可を得なければならないことは重々承知しているが、出発が差しせまっているので、時間がない。
きみたちは、シーラじいさんに、このことを伝えてくれないか。後でぼくが謝って、詳しい事情を話すつもりだ」
3人はしばらく黙っていたが、ペルセウスが、「わかりました。シーラじいさんにはぼくらからちゃんと説明しておきます」とリゲルの気持ちがわかった。
シリウスも、「何かあったらぼくらも行きますから」と力強く言った。
ベラも、「無事で帰ってきてください。待っています」と笑顔を見せた。
「ありがとう、みんな。それじゃ、行ってくる」
オリオンも一人一人見てうなずいた。
息子は黙って先導した。申し訳ない気持ちもあったが、2人が来てくれたことが心強かった。
「パパたちは今どこを探しているの?」オリオンが聞いた。
「いや、わからないんだ。自分たちが自分で決めた場所を探している。途中誰かに聞いて、そういえば、向こうで暴れている者がいたなという情報があれば、そこに向かうことにする。しかし、ほとんど手がかりがないので、悲しくなってくるんだ」息子は、自分たちの気持ちを一気に出した。
3人は、まず家族が集まる場所に行った。しかし、誰もいない。「もうすぐみんなが帰ってくる」と息子は言った。
やがて気配を感じると、息子は「ママだ」と叫んで、そちらに向った。
親子は急いで来た。「わざわざありがとうございます。子供の兄弟喧嘩からこんなことになってしまって困っております」ママは恐縮して言った。
すぐにパパと下の兄も帰ってきた。パパは、2人に気づいて信じられないような顔をした。
「あっ、来てくれたのですか。もう会うこともないだろうと思っていましたが」
「出発するところだったんだけど、ぼくが事情を話すと来てくれたんだよ」
「そうでしたか。こんなことははじめてで毎日おろおろしています」パパも、自分の気持ちを出した。
「2人がどう探すか教えてくれるよ」息子はパパを励ますように言った。
「と言いますと?」
「星を利用するのです」リゲルが答えた。
「星?」
「今空に光っているのが星です。それを見て方向を決めます」
全員で空を見上げた。「ああ、これは星のいうのか。きれいだとは思っていたが、どんなものか気にしたことがなかった。こんなにたくさんあるのに、目印になりますか」パパは怪訝そうに聞いた。
「そうですね。大きくて目立つ星には名前というものがついていて、その名前を聞くと、どの星かわかるのです。
しかも、その星は、季節によってですが、同じ場所にあるのです。だから、その星を目印にできるのです」
パパやママは、空を見上げながら、「わたしらにはさっぱりわかりませんなあ」とあきらめ声で言ったが、下の兄は、弟から聞いていたようで、じっと聞いていた。
「わたしらによくわからないが、何とかあの子を探してやりたいのでよろしくお願いします」パパはあらためてリゲルとオリオンに頭を下げた。
「できるだけのことをします。星がよく見えるようになりましたので、早速行きましょうか」
そのとき、「おーい」という声が聞こえた。「あれはミラじゃないのか」オリオンが言った。
「おーい、リゲル、オリオンはいるか」ミラだ。
「こっちだ。どうした?」リゲルは信号を送った。
「よかった。間に合った」
「来てくれたのか!」
「ぼくだけじゃないよ、みんなもうすぐ来る」
「えっ」
「ぼくが帰ると、シーラじいさんがすぐ行くように言ったのだ。そして、オリオンには、あのカモメに助けてもらうように頼めと言付かってきた。
シーラじいさんは、ここから南南西50キロ先深さ5キロに小さな山があるので、そこで待ってもらうようにぼくから言った」
「そうだったのか!」リゲルとオリオンは互いの顔を見て喜びあった。
その時、「遅くなりました」という声が聞こえたかと思うと、影が次々とあらわれた。ペルセウス、シリウス、ベラだ。三人とも大きく息を弾ませている。しかし、みんな笑顔だ。
「わぁ、全員来てくれたんだね!」息子が叫んだ。
「わたしには、あなたたちのほうが星より輝いて見えます。どうかよろしくお願いします」
パパとママはもう一度頭を下げた。
「それじゃ行こう」リゲルの声は無数の星が輝く空に響いた。

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