シーラじいさん見聞録

   

2人は、息子がよくいる場所に着いたが、どこにも姿が見当たらなかった。
しかし、家族でどこかに行っても、一人でここへ来るから、しばらくすれば必ず会えるという気持ちがあった。
案の定何かが近づいてくるのを感じた。2人は急いでそちらに向った。
「パパが、外の様子を見にいこうというものだから、家族でいつも行かない場所に行ってきたんだ」息子はいつも以上にうれしそうだった。
「どうだった?」
「兄さんたちが、ニンゲンが襲われるのを見た場所に行ってきたけど、ときおりヘリコプターが低く飛ぶぐらいで静かだった。
兄さんたちは、こんなに近くでヘリコプターを見たことがないので、すごい風で遊んでいたけどね。
その後、兄さんたちは、通りがかりの者に声をかけたり、パパは、友だちに会って少し話をして帰ってきたところだ」
「そのことで君のパパとママに話があるのだが」息子はまだ話をしたがっているようだったが、リゲルはそれをさえぎった。
「ありがとう、じゃ、来てくれ」息子はそう答えると、家族が待つ場所に向った。
家族はいつもの場所に帰ってきていた。
息子たちが近づくと、家族はすぐ気がつき、全員がこちらを見た。
パパはにこやかに話しはじめた。
「慣れないことをするのは難しいものですなあ。幼馴染の家族と会ったので、『最近若い者が暴れているようだが、自分の息子がそんな者に係わらないように注意しろよ、できるなら近所の若い者にも声かけてやれよ』と言ったんだが、『頭がおかしくなったか、わしらは家族を守るだけでいいじゃないか』と心配される始末です。それ以上話ができませんでしたよ」
「ぼくらもに通りがかりの者に近づいたが、みんな逃げてしまって、話ができませんでした」上の兄も言った。
「兄さんたちは、怖い顔をして近づくからだよ」息子がからかった。
「そんななことないぞ。なあ?」上の兄が、下の兄に助けを求めた。
「そうだ。急に近づいたかもしれないが」
「ぼくらも最初そうでしたよ。それで、この前のことでお話があるのですが」
リゲルは、教えることはやぶさかではない、いや、あなたたちに協力していただいたら任務が早く達成できるだろうと思う、しかし、人数が少なく、また小さい者もいるので一緒に行動することはできないことを説明した。
パパは、「みなさんがわたしたちのことを真剣に考えていただいたことがわかりました。
あなたたちのおっしゃることはもっともです。
わたしたちほど恵まれている者はいないのですから、自分たちの場所は自分たちで守ります。
ところで、聞けば聞くほど、あなたがたはすばらしい。それで、お詫びかたがたお会いしたいのですが、一度こちらにおいで願えないか」パパは丁寧に言った。
リゲルがそれを伝えると、シーラじいさんは了解した。
7人に会ったパパは、「たったこれだけで世界中を回っているのですか。あなたのような方に出会ったことはないが、息子からこの世のことは何でも知っているおじいさんだと、いや失礼、だからこそ、こんなことができるのでしょうな」パパは、シーラじいさんに言葉をかけた。
「やはりわしらの知らないことが起きているようです。そうじゃなくては、あなたがたが、こんな強い絆で結ばれるわけがありませんから。わしらも、ここでできるだけのことはします」
「ぜひお願いします」リゲルが後を継いだ。
「ただ気をつけていただきたいのは、あなたたちやわたしは大きいですから、よほど気をつけなければなりません。短気でも起こすと、なにもかも水の泡です。ミラも相当苦労しましたから」
ミラは自分が発言をするとは思わなかったので、びっくりした様子だったが、「必要以上に近づくと、相手はすぐに逃げてしまいます。必ず横前方から声をかけることですね」と自分の体験を話した。
その後もリゲルを中心に話が続いた。シーラじいさんも任務について話した。
「争いが増えれば、食料が減り、さらに争いが増えるということですね。
何かしなければ今までのような生活ができなくなるかもしれないということがよくわかりました。時間がかかっても家族で助けあってやります」
「パパとママ、ぼくも仲間に入りたいよ」息子が、もう堪えきれないかのように叫んだ。
「だめよ、みなさんは特別な訓練を受けているのよ。体が大きいだけでは迷惑をかけるだけよ。
あなたがここでがんばるために来てもらっているのがわからないの!」ママは激しく叱った。
息子はべそをかいて、今にも泣きそうな顔になった。リゲルは、「大丈夫だよ。ぼくらがいるんだから」と慰めた。
オリオンは、シャチは、自分の種類以上にママの意見が強いのだなと思ったが、それがうらやましくにも思えた。ミラやベラの心にも、自分の家族が浮かんだようにみえた。

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