シーラじいさん見聞録

   

ペルセウスは急いだ。「みんな集まってくれ」という信号を送りながら、シーラじいさんを呼びにいった。
その信号を聞いたのはシリウスだった。その強弱を確認しながら、ペルセウスに追いついた。
「どうした?」
「オリオンが言っていた友だちが情報をもってきたんだ。しかし、それはニンゲンの言葉なので、オリオン以上にシーラじいさんが詳しいので迎えにいっているところだ。
きみらにも来てほしいと、オリオンが言っている」
「わかった。ぼくは他の者を探してくる」シリウスも急いだ。
ペルセウスはようやく戻って、シーラじいさんに伝えると、すぐにオリオンのいる場所に向った。シリウスに探すように頼んだが、まだ来ていない者を探すためだ。
しかし、シリウスは、ベラとリゲルを別々の場所で見つけた。
リゲルには、あのシャチが同行していた。事情を聞くと、そのシャチは自分も聞きたいと言ったので、現場でシーラじいさんの許可が下りなければすぐに帰るという約束で一緒に来ることを了解した。
しかし、その前に、リゲルは、そのシャチとともに、ミラを探しにいくことにした。
どこかでシャチがいれば、シリウスでは危険だ。また、自分たちのほうが信号を遠くまで送ることができるからだ。
ペルセウスが戻ると、すでにシリウスとベラがいた。そして、しばらくすると、リゲルとそのシャチとミラが着いた。最後にシーラじいさんが海面に姿をあらわした。
リゲルは、そのシャチがいてもかまわないかと聞いた。シーラじいさんは認めた。
オリオンは、ジャンプを何回か繰りかえして、準備ができたことを知らせた。
すると、どこからかカモメたちが集まってきて海面に下りた。
カモメは、まわりにいる者をみて、「あなたが言っていたお仲間ってこの人たちのこと。なんてすばらしいの。夢をみているようだわ」カモメは甲高い声を上げた。
「それじゃ、はじめていいかしら」黒っぽい鳥のリーダーが言った。胴体ぐらいある尾羽が緊張のためか大きく揺れている。
シーラじいさんは、よく聞きとれるように、4羽の黒っぽい鳥の前に進み、その後ろにリゲルたちが集まった。
「お願いするわね。じゃ、準備して。今からこの人たちは少しの間精神統一をしなければならないの。それを利用して、少し説明しておくわ。
船は白くてものすごく大きいの。たまに見ることがあるわね。
船の上で、大勢のニンゲンがのんびり寝転んだり、走ったりしているわ。また、船の上に、海があってそこで泳いでいることもある。
まわりは海なのにおかしなことをするわねとみんなで笑ったりするけどね。
わたしとこの人たちは、朝早くその船に着いたの。もっともわたしたちは早起きよ。
空が明るくなってきたかと思うと、突然真っ赤な光が差しこむの。そして、どんどん真っ赤になっていく。
それにあわせて、今まで寝ていた海も向こうからどんどん染まっていくので、わたしたちは恍惚となって、飛べなくなることもあるの。
『早起きは三文の得』はよく言ったものね。息を呑むような光景を見ると、悪いことなどこれっぽっちも考えなくなるもの。
その日も、いい天気で、船の上には大勢のニンゲンがいたわ。その光景を見て、あちこちから驚きの声が上がった。
しかし、わたしは冷静に仕事に取りかかったの。
新聞や雑誌というものをもっているニンゲンを見つけて、この人たちをその近くに近づけたの。準備ができたようよ。それじゃ、お願いね」
それまで集中するためか目をつぶり、体をびくっとも動かさなかった黒っぽい鳥たちは目を開けた。
まず、リーダーらしき者がしゃべりはじめた。
「リズ、このあたりのようだな」
高い声を出していた鳥が、ニンゲンの男の声を出したのを聞いて、オリオンは言葉が出ないほど驚いた。
昔助けたジムよりかなり年をとっている男だということがわかる。
シーラじいさんのほうを見ると、シーラじいさんも、ちらっとオリオンを見てうなずいたが、すぐに声に集中した。
リゲルたちはニンゲンの言葉を聴くのははじめてだが、じっと聞いていた。
「何が?」もう一羽が言った。
「いや、シャチがこのあたりで船を攻撃することがあるのだそうだ」
「どうして?クラーケンと関係あるの?」
「そうではないと思うが。クラーケンの仲間のサメは15メートル以上あるそうだが、普通の大きさのシャチだと書いている」
「ルイスさん、奥様、おはようございます」
「ハリーさん、ミラーさん、おはようございます」
「奥様方はどうされましたの?」
「まだ寝ていますよ。朝寝坊が一番贅沢だと言っています」
「わたしの女房も、せっかく世界一周しているのだからと言っても、わたしは忙しいのよと言うものでね」
「女は、どこでも用事を見つけるものですからね」
「わたしは、一刻も早く仕事をやめるためにがんばってきたのですがね」
「ワハハ、ワハハ」
「ところで、ルイスさん、何を見ているのですか?」
「いや、この近くでシャチが船を攻撃すると新聞に書いてありましてね。シャチがどこかにいやしないかと」
「海にはシャチの天敵がいないはずで、そんなことをするなんてどうしたんでしょうね?」
「そう言えば、漁師が困っているようですね。世界中の海で、何ものかが網を食いちぎっているそうだ」
「海水浴やサーフウィンも禁止の海が増えたようで、ヨットも襲われることがあるらしい」
「生きたままで」
「そういえば、クラーケン仲間のサメを捕まえると、1000万ドルが出るらしいですね」
そのとき、リーダーの声が元に戻った。
「あなた、ちょっと順番をまちがえてない?」
「そうでした。ごめんなさい」
「簡単なときほど気をつけるようにいつも注意しているでしょ。もう一度」
「そういえば、クラーケン仲間のサメを捕まえると、1000万ドルが出るらしいですね」
「生きたままで」
「そりゃ、無理だろう。15メートルもあって、ものすごく凶暴だから。死んでいてもかまわないそうだ」
「でも、最近は潜水艦でも見ないそうだな」
「いや、潜水艦の後ろに回れば見つかりっこないよ。大きな物体がいることは確認されているのだから」
「とにかく、最近は海賊よりもサメやシャチのほうが怖くなったようだな」
「イルカやシャチのショーも人気がないそうだ。特にイルカは治療に使われているのに、子供が怖がるそうだ」
「海を大事にしなくなって汚れていくとたいへんなことになる」
「やはり温暖化が原因なのかしら?」
「そうですね。逃げ場がないと、誰だってイライラしますもの」
「わたしらも、この船に逃げこんで、命の洗濯をしているのですから」
「その通りだ」
「アハハ、アハハ」
「ワハハ、ワハハ」
「それじゃあ、食事にいこうか」
「そうしよう」

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