シーラじいさん見聞録

   

リゲルも、また急いで帰って、そのシャチとの話を詳しく伝えた。
「ここを守ろうという気持ちが抑えきれなかったのじゃろな」シーラじいさんが言った。
「けがが回復すればまた会おうと別れましたが、ここでしばらく様子を見てかまわないでしょうか」とリゲルは聞いた。
シーラじいさんはうなずいた。
リゲルは、争いがあった場所を中心にそのシャチを待つことにした。ときおりシャチを見ることがあり、そっと近づいたが、別のシャチであった。
4,5日後、一人のシャチがあらわれ、あたりを見ながらゆっくり泳いでいるのに気づいた。
あのシャチだ!リゲルは、相手が気づくぐらいに近づき、動きを止めた。
すると、相手が一気に距離を縮めてきた。まちがいない、リゲルも駆けよった。
「やあ」、「やあ」2人は挨拶をしてから、海面に向った。
「けがは直ったのか」リゲルが聞いた。
「なんとかね。きみにもう一度会いたいと思ってじっと我慢していたよ」
「ぼくも君が来ると信じて疑わなかった」
「家族はぼくの希望をわかってくれたが、兄貴たちはいっしょに行こうかと心配してくれたけど、もう血が出ていないので一人で来た。ぼくらでも、弱っているのを知るとついてくるのがいるからね」
「そうだったのか。きみが養生している間、ここの様子を見ていたが静かだった」
「やつらは、遠くで悪さをしているようだと兄貴たちは言っていた」
「きみも気をつけたほうがいいよ。世の中には、自分たちが正しいと思えば、相手のことなど何も考えない連中がいるから。
だから、いつも自分の使命を忘れずに行動をしろと、シーラじいさんが言っている」
「シーラじいさんって?」
「シーラじいさんか?ぼくらに何でも教えてくれる人なんだ。いつも近くにいるんだ。今もいるよ」
「ぼくに会わせてくれないか?」
「話してみる。シーラじいさんも、きみのことをたいへん感心いていた。
自分の気持ちを伝える勇気をもっているって。しかし、シーラじいさんはぼくらと同じ種類じゃないよ。きみらが見たことのない種類だ」
その後も、お互いに自分のことを話した。
そのシャチは、シーラじいさんやオリオンたちに早く会いたいという気持ちがますます募ったようだった。
リゲルは、シーラじいさんに連れてきてもいいという許可を得て、翌日同じ場所に行った。
すでにそのシャチが待っていた。リゲルは、そのシャチを連れてきた。
ミラも早めに戻ってきていた。リゲルは、まずシーラじいさんに紹介した。
そのシャチは緊張していたが、シーラじいさんが「大変じゃったな」と声をかけるとうれしそうにうなずいた。その後、一人一人に挨拶をした。
「すごいじゃないか。別の種類の者が一つの使命のために協力するなんてことがあるのだな。しかも、広い世界をみんなで旅するなんて。夢を見ているようだ」と驚いた。
その後、毎日のように来て、みんなと話をするようになった。
あるとき、オリオンが海面にいるとき、またあのカモメが大きな声でオリオンを呼んだ。
「あなたをずっと探していたのよ。情報があるわ」と、海面に下りるのもどかしそうに叫んだ。
「何かわかりましたか?」
「そうよ。早く知らせたかったの。でも、あたしが聞いたことじゃないの。
あの大きな乗り物に乗っているのがニンゲンというものよね。
ニンゲンは悪いことをしているからやっつけなくっちゃというだったわね。
でも、わたしたちに食べものをくれたりしてやさしいところもあるのに、どうしてなのと不思議だったの。
それで、ニンゲンが日頃何を考えているのか知るのが一番だと気がついたのよ。
でも、よく考えたら、わたしたちはニンゲンの言葉はわからないので、あるおじいさんに相談をしたの。
そのおじいさんは何でも知っているのよ。でも、今はあまり飛べなくなっているの。
それで、そのおじいさんがいる島に行って相談したってわけ。
おじいさん、しばらく考えていたが、音の真似が上手な鳥がいる。それを、ニンゲンの言葉が分かるものに聞いてもらえばいいのじゃと教えてくれたの。すごいでしょ。
そこで、おじいさんの世話をしている者が、その鳥を呼びにいってくれたの」
「その鳥はどこにいるのですか」
「もうすぐ来るわよ。あなたが見つかり次第ここに来るようになっているの」
そう言いおえるやいなや、向こうの空から、何かが向ってくるのが見えた。
最初は豆粒のように小さかったが、だんだん大きくなってきた。白い鳥なので仲間かなと思っていると、すぐそばまで来ると茶色の鳥だ。カモメの倍はある。同じ色の尾は30センチはありそうだ。
みんなオリオンの近くに止まり、オリオンを興味深そうに見ていた。
横にいたカモメは、「あなたたち、こちらがわたしが言っていた方よ」
オリオンは頭を下げた。
「話を聞くと驚くわよ。広い世界を平和にするために、こんな体でばんばっているのだから」と続けた。
すると、茶色の鳥の1人が、「それについてはあなたから何回も聞いているわ。
でも早くしてくれない。1人では無理なので、4人で役割分担をしておぼえているのだけど、早くしないと忘れそうなの。お役目がすんだら、この方と直接話をするから」と口を挟んだ。
「そうね。それじゃはじめるわよ」
「ちょっと待ってください。ぼくだけでは心もとないので、シーラじいさんを呼んできます」オリオンはあわてた。
ちょうどそのときペルセウスが来ていたので、事情を話し、シーラじいさんや他の者を呼んでくるように頼んだ。

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