シーラじいさん見聞録

   

「わしらも現場にいた飛行機事故のことがまとめられているので、それから話をはじめる。
あの事故では200人近いニンゲンが死んだが、海に放りだされた100人近い者がクラーケンの部下に襲われた。
飛行機の残骸に掴まり助かった者の証言では、そのとき半数近くがまだ生きていたようじゃ。
機体にはまだ生きている者もいたであろうがやがて機体とともに沈んでいった。
残骸などに掴まっていた者にクラーケンが襲いだしたときにおまえたちが必死で助けようとした。
そして、6人のうち4人が助かった。1人は怪我がもとで亡くなり、1人は海に転落して命を落とした。
回復した4人の証言で、おまえたちの行動がわかりニンゲンに深い感銘を与えているということじゃ。
しかし、通常の何倍もあるサメに、普通の大きさのシャチやイルカが向かっていくことはありえないし、ましてや、ニンゲンを助けるなどということは絶対ないという専門家の意見が根強く、恐怖のあまり錯乱を起こしたのでないかとも言われているそうじゃ。
これについては、依然報告したことがある。
ここではわしの考えは言わないようにしているが、一つだけ許してもらえれば、いかに大きな者でもあれだけのニンゲンが必要じゃったのかということじゃ。
それで、現場には大勢のニンゲンが来るようになった。ニンゲンはそれぞれ国というものに属するのじゃが、その飛行機を持っていた国などが事故の原因を調べるためじゃ。
それにはブラックボックスというものがいるが、飛行機とともに沈んでいる。そのために、潜水艦を使って探す必要があるが、アメリカやロシアという国も協力をすることになった。なぜなら、またクラーケンがあらわれて潜水艦を襲うのではないかと戦々恐々としているからと書いてある」
シーラじいさんは、そこで一息入れてすぐに話しだした。
「また、海洋生物の専門家あるいはマスコミのニンゲンが大勢に詰めかけるようになった。マスコミとは、こういう雑誌や新聞を作ることを仕事としているニンゲンのことじゃ。
彼らが現場で調査や取材をしているとき、クラーケンたちはどこからともなくあらわれて、また船を襲うようになった。3隻の船が攻撃された。投げだされた6人が命を落とし、2人が行方不明になっている。しかも、海に潜っていた者4人が犠牲になった。
これまで飛行機事故の犠牲者はクジラに襲われたのではないかと思っていた専門家は、怪物の影を見て、クジラではないと結論づけた。
それで、マスコミは、クラーケンという言葉を使うようになった。
それについても説明したことがあるが、ニンゲンは万物の霊長と自認しているように、陸以外でも、飛行機というもので空を飛び、船や潜水艦で海に乗りだしてきた。
つまり海や陸がある地球をニンゲンは自分のものと思っているようじゃ。
しかし、ニンゲンといえどもすべてが分かるものではない。特にわしらが住んでいる海については今も分からないことが多い。
それで、昔は船が沈没したりすると、海には大きな怪物がいるのではないかと思うようになった。船に乗っていたニンゲンが、船より大きな者に襲われたと言いだしたからじゃ。
しかし、昔から、怪物などいない、船が故障したか、嵐に巻きこまれたのだと考えるニンゲンもいる。
ところで、ニンゲンは、最近海に何か大きな変化が起きているということをしきりに言うようになっている。それとクラーケンを結びつけるようになった。
その変化とは温暖化ということじゃが、これについても以前言ったことがあるが、一言で言えば陸や海が暑くなることじゃ。
その理由は、飛行機や船を作るために多くの燃料や材料がいるが、それが原因ではないかということじゃ。しかし、断定はできないという専門家もいる。
とにかく、温暖化は、ニンゲンだけでなく、わしらには少なからず影響が出る。なぜなら、わしらの環境が変わってくるからじゃ。
わしらの中にも、何かおかしいと言うものがいるが、それを感じているのかもわからんな。そこで、わしらやニンゲンが海と考えている場所以外にも別の海があって、温暖化の影響がそこにも及ぶようになって、そこに住んでいたクラーケンが出てきたという意見もあるし、あるいは核の影響があるのではないかという意見もあるようじゃ。
核とは、わしもよく分からんが、ニンゲンの文明のためにも使われるが、ニンゲン同士が戦うときに、相手を大量に殺戮するためにも使われる。
何千回という実験が海で行われたようじゃが、それが、海の生物に影響を与えて、今までなかったような生き物を作りだすということじゃ。それがクラーケンではないかという専門家もいる。
もし、そうであれば、クラーケンのような怪物が、何かの拍子にもっと出てくるようになるかもしれないと心配しているのじゃ。
それは、ニンゲンにとって死活問題になる。なぜなら、ニンゲンは、海にいる生き物を自分たちの食料としている。怪物があちこちに出没すればそれを取ることができない。
それで、多くの国が、クラーケンの調査をはじめた。
そして、わしらが城といっている岩山にいるのではないかと判断して、特に城を警戒するようになった」
シーラじいさんは、そこまで言うと、幹部をはじめ全員を見回した。
「はじめに言うべきだったかもしれないが、ニンゲンはボスのことにも言及している」
聴衆は体を乗りだした。
「わしはボスのことを最後に言うことを決めていた。なぜなら、わしも感情を殺して話ができないとおもったからじゃ」
シーラじいさんは、そういうと一気に話しはじめた。
「やはり、潜水艦に乗っていたニンゲンは、クラーケンを攻撃しようとしたが、ボスの向きが変わって背中に当たったようじゃ。
攻撃した潜水艦の艦長の話が載っている。何か大きな者が、多分クラーケンが、突然自分たちのほうに向かってきた。これは危ないと思ったとき、何かがクラーケンに向かっていった。
その大きなものは、多分クジラだったが、われわれを助けようとしたのがわかった。
二つの巨大な者は絡みあったまま激しく戦いはじめた。
われわれは、その隙に逃げだせばよかったが、そのクジラは、われわれを守ろうとしたのだから、今度はわれわれが助ける番だと判断して、こんなことになってしまったと後悔している。そして、あのクジラが無事であることを祈っていると話を終えている。
しばらくして、多くの潜水艦が城を取りかこんだが、誰もいなかったそうじゃ」

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