家庭秘書

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復活ノート

「家庭秘書」
オルダス・ハクスリーの「すばらしい新世界」という小説は、全世界から暴力をなくすために考えられた世界を描いたSF小説です。
そこでは、人間は培養ビンから生まれ、完全にコントロールされて成長しますので、自分の身分に疑いをもつことなく生活します。もちろん、結婚制度はないので(フリーセックスが認められています)、家庭というものがありません。
その小説は2004年に起きた最終戦争後という設定です(1932年発表)。
今は2010年の終わりですが、実際はどこの国も核戦争の準備で大わらわです。
しかし、家庭という存在は、国が廃止をせずとも、どんどん力が衰えているような気がします。
私は介護コンサルタント会社をやっています。スタッフは、介護の技術を教えるだけでなく、家族の悩みの相談に乗っています。
やはり老人施設などの外部との軋轢(あつれき)から家族に問題が起こることが多いようです。
先日も、認知症の主人は週2回デイケアに通っていますが、そこで大きな声でどなるので、今日かぎりでこないでほしいと言われたと奥さんが泣き声で電話をしてきました。「元警察官だからでしょうか」というわけです。
介護保険では、正当な理由なくして断れないのですが、施設側は他の利用者を守るためにいう大義名分を用意しているでしょう(しかも、他の施設を紹介しなければならない義務があります)。
奥さんは、どこへ行っても同じことが起きるだろうから、体力があるかぎり自分で見ると決めましたが、その間に認知症の実績がある施設を探すことにしました。
いつも明るい奥さんですが、世間から冷たくされて早く死にたいとさえ口に出します。
家族がパニックを起こすと、あまりいい解決策が取れません。目先のことしか考えられなくなるからでしょう。
それはおとしよりだけでなく、若い夫婦の場合でもあります。
私たちの知りあいのことですが、長男が高2で高校をやめたいと言うので、担任に相談すると、体育の単位が足らないので、どこにも推薦できないとのことです。
「苛められていた」と言うと、「本人が悪いのとちがいますか」という返事(体育の授業に出ていないのを親はまったく知らなかったというのですが)。
親はパニックを起こして、子供の言いなりに、高卒の資格だけを与えるような高校に30万円を払って入学したとのことです。本人が、早く近所の精神病院付属の介護コースへ行きたいという理由です。
私たちは、もう少し考えるべきだった、高卒の資格取得の方法は他にもあるし、介護の仕事をしている親なら、普通のヘルパーでは食べていけないことはわかっているのだから、PTやOT,STの専門学校を考えるように説得すべきだった、費用は高いが、奨学金を利用することができるなどと話すと、だれもそんなことを言ってくれないと泣くのです。
医者にしろ、教師にしろ、介護のスタッフにしろ、どんな人に当たるかが人生を大きく決めるようです。
そういう人が少なくなったので、家庭は漂流をはじめたのでしょうか。
以前、おとしよりの家庭のために「家庭秘書サービス」というものを提案しましたが、今は若い夫婦の家庭にも、「家庭秘書」はいるようです。
どのようなビジネスをされていても、これを頭に入れておいてください。