シーラじいさん見聞録
「そうじゃな」
シーラじいさんは、そういうと、「海の中の海」に来たことを話しはじめた。
ジムというニンゲンが小さなボートに乗って漂流していたこと。オリオンが魚を投げいれて助けたこと。もうすぐ仲間が来るというので、オリオンがボートを引っぱって、来そうな方角に向かったこと。ジムは、それに感謝をして、オリオンの体を治す約束をしたこと。しかし、助けにきた二人の仲間は、ある物を早く見つけるために、また、ニンゲンの言葉をしゃべるオリオンを売りとばすために、ジムを気絶させたうえに、オリオンをボートにくくりつけて猛スピードで船を飛ばしたこと。
そして、それを見たボスが、オリオンを助けるために、下から船に体当たりをすると、船は、空高くあがってひっくりかえったこと。ボスは、その衝撃で意識不明になったオリオンを、「海の中の海」へ連れてかえり、看病したことなどを話した。
みんな熱心に耳を傾けた。もちろん、ニンゲンを襲う者がこないかを見張りながら。
「そのニンゲンはどうなったのですか?」指揮を取る者が聞いた。
「2人の仲間は海にたたきつけられて死んだ。部屋に閉じこめられていたジムは、見回り人によって、航海している船の近くまで運ばれた。きっと助かるだろうということだった」
「そうだったのですか。それじゃ、わたしたちもニンゲンに早く食べものをもってきましょう」
飛行機事故を最初に報告した見回り人が口を挟んだ。
「シーラじいさん、沈んだ飛行機の中にいるニンゲンは助けにいかなくていいのですか?」
「ニンゲンは海では生きていけない。残念ながら死んでいるじゃろ」
「でも、わたしは、ニンゲンらしきものが、海の中で遊んでいるのを見たことがありますが」
「それは、海の中で呼吸ができる特別の道具をつけているからじゃ。今ごろは、海の底にいる者の命となっている」
「わたしは、てっきりニンゲンは泳げるが、敵が襲ってくるので、あそこにいるとばっかり思っていました」
「ニンゲンは、海では非力じゃ。このままほっておくと、襲われることがなくても、あと4,5日ももたないじゃろ」
「それじゃ、食べものをなんとかしたほうがいいですね」指揮を取る者が急がせた。
「そうかもしれない。しかし、もう助けが来るはずじゃが」
そのとき、「あなたたちは、何をしているのですか」という声が聞こえた。
振りかえると5,6頭のイルカがいた。
襲撃している者かとみんな身構えた。もちろん襲撃している者は、シャチ、サメなどに混じってイルカもいたからだ。
しかし、みんな穏やかな表情をしていて、敵意をあらわしているようではなかった。
「わしらは、騒ぎを収めようとしている」シーラじいさんは大きな声で言った。
「そうでしたか。わたしたちも、何が起きているのか見にきています」
「おまえさんたちは調査官じゃな」
「よくご存知で」
「昔おまえさんたちに世話になったことがある」
「そうでしたか。1年間調査官の義務があります。どうやら静かになったようなので帰ります」
「まだ取りのこされている者がいるが」
「はい。海に落とされて襲われているのは目撃していましたが、わたしたちが守る対象じゃないので」
「調査官は、難渋しているニンゲンに同情してくれた」
「わたしたちは、指示に従うだけです」
「それじゃ、気をつけて帰りたまえ」
5、6頭の調査官は帰った。
調査官を見送りながら、シーラじいさんは、遠くで飛行機が旋回している。あれは捜索をしているはずじゃ。今日、明日のうちに救助が来る。わしらも、そろそろ引きあげるころじゃと考えた。
そのとき、「あっ」という声が上がった。改革委員会のメンバーの一人だった。
「あれを見てください」
そちらを見ると、大きく海が盛りあがり、それが、浮いているものに近づいている。
「大軍が来たようだ」
指揮官は、そう叫ぶと、シーラじいさんを見た。
シーラじいさんはうなずいた。
オリオンと改革委員会、見回り人は、そちらに急いだ。
キャーという声が聞こえたと思うと、どなる声が続いた。ニンゲンも、あの海の盛りあがりに気づいたようだ。
ニンゲンは、機体の破片や荷物の上に乗っているので、あの波でもひっくりかえるかもしれない。
幸い大波が近づくまえに、ニンゲンに近づくことができた。追いついたシーラじいさんは、「オリオン、ニンゲンを動かせ」と叫んだ。オリオンは、すぐ5人に乗っている機体の破片に向った。ニンゲンは、それが敵と思ったのか、男たちは、棒のようなものでオリオンを追いはらおうとした。
「みなさん、わたしたちは、みなさんの味方です。どうぞ心配しないでください。
落ちついて、わたしの指示に従ってください」オリオンは、一気に話した。
それは救助隊が来たようだった。しかし、そこにいたニンゲンは、イルカがしゃべっているのに気づいて呆然としていた。