大騒ぎ
「今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(198)
「大騒ぎ」
昔々都から二十里ほど離れた山の中に小さな村がありました。貧しい村でしたが、みんな仲よく暮らしていました。
ある夏の午後、いつものように子供たちは村を流れる川で泳いだり、魚を取ったりして遊んでいました。
空には雲一つなく子供たちの声と蝉の鳴き声が聞こえるのみでした。
突然、ごろごろという音がしました。夕立が来るかもしれませんが、子供たちは誰も気にしません。雨が降れば涼しくなるでしょうし、雨の中で川遊びをするのは楽しいものですから。
しかし、空は晴れたままなのに、音はどんどん大きくなってきました。一向に雲が出てきません。子供たちはそんなことも気になりません。
突然、ドンという音がしたかと思うと、地響きが起きました。
ようやくお互いの顔を見て、「今のはなんじゃ!」と大きな声を出しました。
「雷が落ちたんか」、「まさかこんな晴れた日に落ちるわけがない」などと話しあっていました。
ごろごろという音もしなくなりました。それで、あの音は山の大木が割れる音で、地面に倒れたときに地響きがしたのだと考えて、川遊びを始めました。
遠くから誰かが走ってきます。「おーい。来てくれ」と叫んでいます。
女か?みんなそちらを見ました。どうも村の娘のお滝のようです。
村の子供たちは、小さいときは男女一緒に遊ぶのですが、少し大きくなると、女の子は女の子同士で遊ぶようになります。
特にお滝は、十歳を過ぎ、そろそろ都に奉公に行かなければならないので、料理や裁縫などを覚えるために、外で遊ぶ時間はありません。
みんな、お滝がこんなところへ来たこと。そして、その慌てぶりをぽかんとして立っていました。
「どうしたじゃ?」誰かが聞きました。
「わたしが使いで道を歩いていたとき、どすんという音がしたので、そちらを見ると、誰かが倒れておった。怖くてどうしようかと思ったが、見ると小さな男の子じゃった。川には誰かおるじゃろと思って飛んできた」お滝は息を切らしながらも説明しました。
「それは大変じゃ。よし、行こう」子供たちは裸のまま急ぎました。
確かに草が生えている空き地に誰かが倒れています。自分たちと同じぐらいの男の子で褌をつけているだけです。
「おーい。どうした?」誰かが声をかけました。しかし、うーんと言うだけです。
「生きている。でも、空から降ってきたのか?」とお滝に聞きました。
「そうじゃ。どすんという、それはそれは大きな音じゃった。わたしは尻餅をついたのじゃから」
「確かにわしらも地響きは聞いた」
そのとき、誰かが、「おい、見ろよ。こいつには角(つの)があるぞ!」と叫びました。長い髪を伸ばしていますが、その間から角が見えます。
「こいつは鬼の子じゃ!」とみんなが騒ぎました。
やがて通りがかった大人が寄ってきました。その子供を子細に調べていましたが、「こいつは鬼の子ではない。雷の子じゃ」と断定しました。
騒ぎを聞きつけた村の大人が大勢集まってきました。「これはめずらしい。噂では聞いていたけど、実際に雷の子を見るのは初めてじゃ」大人たちも興奮しています。
「どうしたもんじゃろ」、「そうさな。せっかく村に落ちてきたのじゃから、村の衆に見てもらおう。どうするかもみんなに決めてもらおう」
雷の子はまだ意識が戻っていません。そこで、木の枝に着物を渡してそこに雷の子を寝かせて村まで戻りました。
昼寝をしていた大人が集まってきました。「これが雷の子か」、「人間の子そっくりじゃ」、「頭のてっぺんを触ってみろ」、「こりゃ、すごい。角がある。まちがいなく雷の子じゃ」
みんなが角を触って騒いでいましたら雷の子が目を開きました。