お梅(12)
2018/06/16
「今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(193)
「お梅」(12)
お勢さんのお母さんが、「お梅さん、ここにお座りください」と言いました。
お梅は座ったものの食卓に並べられた料理の山に目を取られたままでした。
お母さんは、「わたしは遠慮しますからゆっくり召しあがってください」と立ち上がろうとしました。
我に返ったお梅は、「そうだわ。こちらのお父さんとお母さんにちゃんと手をついて、『今日はお招きいただいてありがとうございます』と挨拶するようにおばあさんから言われていました。あのー、お父さんはおられますか?」とお梅は聞きました。
「それはご丁寧なことです。お礼はそれでいいですよ。主人もお梅さんに直接お礼を言いたかったのですが、用事で出かけたのでお会いすることができません。
お梅さんのお気持ちは伝えておきます。ゆっくりしていってください。
分からないことはお勢にでも、女中のお清にでも遠慮なく言ってください」
お母さんはそう言って出ていきました。
また食卓に並べられた料理に目をやったお梅は、「これは何という魚ですか。こんなに大きくて赤い魚は見たことありません。どこの川で取れるのですか」と聞きました。
お清は、「これは川にはいませんよ。海にいる鯛という魚です。おめでたいときに食べるのです」と説明しました。
「そうですか。生まれて初めてみました」お梅は目を丸くして見ました。
それからも、「これは何ですか?」、「これはどうして食べるのですか」と興味が尽きません。
「お梅さん、お腹がすいたでしょう。早く食べましょう」とお勢さんが声をかけました。
お梅はお勢さんが食べるものを見ながら同じように食べていきました。
しかし、なかなか減りません。お梅はお勢さんに、「残ったものはおばあさんにもってかえってもいいでしょうか。とても喜ぶと思うので」と思い切って言いました。
「いいですよ。後でお清に用意させますから」とお勢さんは快く言ってくれました。それから、「お清、お菓子をもってきてください」と言いました。
「まだお菓子があるのですか」お梅はびっくりしました。
「食事の後はお菓子を食べます。お梅さんは食べないのですか」
「柿を食べることがありますが、ほとんど食べません」
「それじゃ、少し遊びましょう」お勢さんはお梅を奥の部屋に案内しました。
お勢さんが襖(ふすま)を開けると男の人がいました。二人を見ると、すぐに立ち上がりました。
お梅は恥ずかしくてちらっと見ましたが、大人ではなく少年でした。
「お兄さん、お梅さんです」お勢さんは声をかけました。
少年は、「この度はお世話をかけました。どうぞゆっくりしていってください」と言うと、お梅が挨拶をする間もなく部屋を出ていきました。
「兄は恥ずかしがりやで両親も困っているの」
「どうしてですか?」
「商売を継がなければならないのに、それでは間に合わないからです。しかも、学問で身を立てたいなどと言っています」
「そういえば、寺子屋の先生がこの村に神童がいるとおっしゃっておられましたが、お兄さんのことでしたか!」
「神童かどうかは分かりませんが、ほっておいたら一日中本を読んでいます」
お勢さんはそれ以上お兄さんの話はしたくないようで、「さあさあ遊びましょう」とお梅が見たこともない人形を棚から出してきました。それで人形遊びやままごと遊びをしました。
お梅が何気なく床の間を見たとき、そこに見たことのあるものが飾ってありました。これは!お梅はどきどきしました。しかし、黙っていました。
そして、お勢さんがお菓子を取りに行ったとき、それを手に取って見ました。
まちがいありません。そのとき襖が開きました。