お梅(11)

   

「今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(192)
「お梅」(11)
「おまえのことを覚えておいてくれたら、何かと都合がいいぞ」おばあさんは大喜びでした。
「どうしてですか?」
「良縁でも来たら、おまえは仕合せになれる。わしとしても、おまえの親に面目が立つというものじゃ」
「おばあさん。私はまだ子供ですよ。そんな気の早いことは言わないでください」
お梅はおばあさんに注意しました。
「それはそうじゃが、素行というものは子供のときからあらわれるものじゃ。
しかも、世間は人のことはようおぼえているものじゃから、おまえが大人になっても今度のことは誰もが話してくれるはずじゃ」
「わかりました。とにかく、明日酒屋に行ってきます」
昼前お梅はおばあさんが用意してくれた一張羅の着物を着て酒屋に向かいました。
一里ほど歩くと遠くに高い煙突が見えてきました。煙突は村のどこからでも見えるのですが、こんなに近くで見るのは初めてです。
少し高台になってきました。その一帯はお金持ちの家が並んでいて、他の村人は行くことはありませんから、しーんとしていました。
お梅はどきどきしながら高い煙突のある屋敷に向かいました。
すると、向かうから誰かが走ってきます。お梅はどうしようかと思いましたが、丁稚のような若い男が近づいてきて、「お梅さんですか?」と聞きました。
お梅はほっとして、「そうです。立花梅と申します」と丁寧に答えました。
「お嬢さんがお待ちです。どうぞこちらへ」と案内してくれました。
屋敷に入ると、そこは大きな庭になっていて、左側にはたくさん木が生えていました。
右手には大きな建物がありました。たぶんそこでお酒を造っているようです。
まっすぐ行くと見事な屋敷があり、丁稚はそこに入るように言いました。
お梅が中に入ると、途端に涼しくなりました。汗をかいていたので、とれも気持ちよくなりました。
薄暗いので中はよく見えませんでしたが、ようやく目が慣れてきたのであたりを見ると、どこまでも土間が続いています。
左右に部屋があるようです。これもいくらあるのかわからないように続いています。
そのとき、「お梅さん!」という声が奥から聞こえました。その声はお勢さんです。
お梅も心配になって走っていって、「お勢さん。大丈夫ですか?」と聞きました。
「お梅さんのおかげで、頭には異常が残らないのじゃろと亮善先生がおっしゃってくださったの。ありがとうございました」お勢さんは丁寧に礼を言いました。
そのとき、「お勢。来られたの?」という声がしました。
「はい。お母様。来られています」
奥から女の人があらわれました笑顔で頭を下げました。後ろには女中のような若い女の人がついています。
「お梅さん。この度はお世話かけました。お梅さんがすぐに駆けつけてくれなければ助からなかったと聞いています。誠にありがとうございました」お母さんはまた深々と頭を下げました。
お梅はこんなことをされたのは初めてだったので、どうしたらいいのか分からず、ただ頭を下げるだけだった。
「さあさあ。お口に合うかどうかは分かりませんが、お昼をお勢と一緒に召しあがってくださいな」
「ありがとうございます」お梅は丁寧に頭を下げました。
「大人な遠慮しますから、どうぞゆっくりしてください」
若い女中が、「お梅さん。どうぞこちらへ」と案内しました。さらに奥に行き、突き当りの部屋の前で、女中は、「どうぞ」と言いました。
部屋の中には大きな座卓があり、そこには見たこともないようなごちそうが並べられていました。
「こんなごちそう見たことありません」
「さあ、食べましょう」
「でも、みなさんがお越しになるまで待ちましょう」
「いいえ。二人で食べるのよ」
お梅は目を丸くしてお勢さんを見ました。女中がくすくす笑いました。

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