ピノールの一生(21)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(131)
「ピノールの一生」(21)
さらに風が強くなり、山のような波がボートを持ち上げたかと思うと、一気に叩き落したりします。ボートについているロープをしっかり持っていないと放り出されそうです。
稲光が激しくなってきて、まるで昼間のような明るさになります。すぐそこに雷雲が来ているようです。
すると、突然ドカンという音がしたかと思うと、ものすごい衝撃が走りました。
ボートに雷が落ちたようです。二人の体は痺れました。体を動かすと大事にはなっていないようです。ボートに直接触れていなかったからでしょうか。
「危ないとこだった」ピノールは相棒に声をかけました。「ほんとだ。一つタイミングがちがっていたら、今頃は黒こげになっていた」相棒もほっとしたようです。
「しかし、まだ油断できない。いつ攻撃されるかわからない」
確かに、稲光はさっきよりは少なくなったようですが、雲の流れでどうなるかわかりません。
その様子を見ていたクジラの親が、「わしと息子で、腹を使ってボートを沈めます。あなたたちは、ボートのロープをしっかり持っておいてください。幸いあなたたちは呼吸をしなくてもいいのですから、しばらく避難しておいてください」
「それはいい考えだ。お願いします」二人はロープをつかんでいるところに、「大丈夫でしたか?」という声が聞こえました。
声のほうを見ると、大きな影が近づいてきました。ピノールは、「ああ、きみか。家族とは会えたのかい?」と声をかけました。自分を助けてくれたシャチでした。
「会えました。会えましたが・・・」シャチは口ごもりました。
「どうした?」相棒が聞きました。
「パパが死んでしまったんです」
「何があったんだ?」二人は聞きました。
シャチの話では、ようやく家族の元に帰ったとき、すでに父親は死んでいました。以前から仲が悪かったシャチとのいざこざが大きくなって、殺されてしまったというのです。
そして、家族や親戚からは、「おまえが長男だから、おまえを先頭に立って、敵討ちをするべきだ」と言われているそうです。「もちろん、わしらも加勢するから」と。
「やるのか?」相棒が聞きました。
「いや、まだ」
「怖いのか?」
「そんなことはありません。そんなことは絶対ありませんが、相手を殺してもパパは喜ぶのかと思うだけです」
「ぼくらにできることはあるのか」ピノールは聞きました。何か頼みたいことがあるから来たのだろうと思ったのです。
「いや、そんな。いっしょにいたとき、雷のことをおっしゃっていたので、ひょっとしてと思って来ただけです」
「そうか。ありがとう。今のところ大丈夫だよ」
そのとき、相棒がピノールを呼びました。「ピノール。敵討ちを手伝うよなんて言わないだろうな。
きみは十分お礼は言ったし、やつはいったん親元に帰ったんだ。これ以上かかわりあうことはない。
きみは急いで帰らなくてはならないのだろう?幸いクジラがどこか陸に連れて行ってくれると言っているじゃないか」
「わかっている。でも、あの子はアドバイスを求めているような気がするんだ。誰だって一人では解決できないことがあるのだ」
「つきあいきれないな。ロボットのきみが、この30世紀には人間さえ捨ててしまった義理と人情で悩むか」相棒はあきれ顔で言いました。
「まあ、そういうなよ」
「昔、工場で働いていたとき、担当の人間が、『おまえらは気楽でいいなあ。言われたとおりにしておればいいのだから。おれたち人間は、何をすべきか考えなければならないんだ』とか抜かしていた。きみのことを教えてやりたいよ」
しかし、ピノールは返事をせず、じっと考えているようでした。
「結局、どうしたいんだ!」相棒はちょっと声を荒げました。
「しばらくあいつのそばにいてやりたいだけだ。敵討ちを手伝おうなんてことはしない」
「わかった。あいつにそう言ってくれ」