ピノールの一生(5)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(95)
「ピノールの一生」(5)
午後2時、ゼノールじいさんの部屋の壁にあるランプが赤く点滅したかと思うと、ブーブーと激しく鳴りはじめました。
昼寝をしているゼノールじいさんは少し目を開けましたが、また眠ってしまいました。
この警告音は、火事を知らせるものではなく、外気温が60度を越したので、外に出るなと警告しているものだからです。
すべての家に国が設置しているのですが、ただ、それを無視して、外に出て倒れたりしても、一切救助しないという法律があります。
また、60度になりそうなときは、ヘリコプターで、「すぐに屋内に入るように」と注意しますが、ゼノールじいさんは、最近足腰が弱ってきたので、外に出ることはありません。
食べものは、国がロボットを使って運んでくれるし、その時に、安否も確認してくれるので、とりあえず生活に困ることはありません。
ただ、ピノールのことだけが心配です。今ごろどこで何をしているやらと考えると居ても立ってもいられなくなります。
「いくら暑くてもロボットだから心配ないように見えても、あいつは昔の部品でできておる。熱の排出機能は十分でないから、休むことなく動きまわっておれば熱がこもって内部が焼きつく恐れがある」
そのとき、電話が鳴りました。ボタンを押して、部屋全体が受話器になるモードにしました。警察からでした。「ゼノールさんですか」と聞いています。
「先ほど、ヘリコプターで外出禁止の警告をしているとき、誰か倒れているので、近づくとロボットでした。住所はどこだと聞くと、あなたの家でした。
ひどく傷んでいて、あちこちから煙も出ていました。機能停止状態ですが、我々は助けるわけにはいきません。
それに、調べると、あなたはこのロボットを登録されていませんから、本来は罰金がかかりますが、相当古いロボットなので、今回は調書を作らないようにしておきます」とのことだった。
「ピノール、生きておったか。そして、こんな近くに」ゼノールじいさんは、そう言って、どうするべきか考えました。
「煙が出ているということは、壊れてしまった部品もあるということだ。とにかく、歩けるようになる部品だけを探そう」と考えて、物置に行って、ガラクタのロボットからそれらを集めました。
午後4時、外気温は57度です。ゼノールじいさんは、それらをリュックに詰めて、「よし、手遅れにならないうちに出かけよう」と自分に気合を入れました。
家からその場所まで、多分3時間はかかります。それに山道ですから、もっとかかるかもしれません。
腕時計式の警報機が、「屋内に入るように」と言いつづけていますが、電動の杖を頼りに歩きつづけました。
汗まみれになりながらも、ようやく何度も探しにきた海が見える見晴らし台に着きました。ここから、海に向かって崖を下りなければなりません。
ロープを木につないで、海と反対を向いてゆっくり下りました。見晴らし台から1時間以上かかりました。
意識が薄れていかないように気をつけていると、焦げ臭いにおいがしてきました。何度もこけながら、そのにおいのほうに進みました。
浜辺の横の木の下に何かいます。ピノールです。ゼノールじいさんは、「ピノール!」と声をかけました。
ピノールは少し目を開けて、「ゼノールじいさん、申しわけありません。ぼくは・・・」と小さな声で答えました。
「待て。耳からも煙が出ている。知能装置がやられているかもしれない。まずそこを直す」ゼノールじいさんは、ピノールの話を止めて、ドライバーでピノールの頭部を開けました。そして、部品を外しては新たな部品と変えました。
日が陰る前に、ようやく応急処置が終わりました。
「ピノール、目を覚ませ」ゼノールじいさんは声をかけました。すると、ピノールは大きく目を開けて、立ち上がりました。
「無理をするな。記憶装置は緊急用だから容量が少ない。わしが言うように動けば家までは帰れる」
しかし、ピノールは、もう歩けなくなっているゼノールじいさんを抱えて崖を登り、そのまま家に帰りました。
ゼノールじいさんは、数日の間ピノールの修復をしました。もちろん中古の部品でしたが、何とか元通りになりました。
そして、今までのことを謝り、散歩で出会ったロボットのモイラと愛しあっていること。ケイロンというロボットがモイラを奪おうとしていること。さらにケイロンが仲間を連れてモイラの家に来るので、モイラの、人間の両親がモイラを助けてほしいと頼むので、二人で逃げたことなどを話しました。
「半年ほど逃げたのですが、それでも見つかったので、あの浜辺でケイロンと決闘しました。ぼくもつぶれましたが、ケイロンを完全に破壊しました。仲間が連れてかえりましたが」ゼノールじいさんは事の次第がわかってほっとしました。
「これからは、ここにいておじいさんのお世話をします」と言ったとき、また電話が鳴りました。

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