シーラじいさん見聞録
「おい、みんな聞いてくれ」兄は大きな声で叫んだ。
早朝だったので、その声は遠くまで聞こえた。そして、仲間が飛びたつのを見て、声が聞こえない場所にいるものまでが集まってきた。
「どうした!」、「何かあったのか?」と叫びながら、兄弟に声をかけてきた。
「イルカがいたぞ!」兄は叫んだ。みんながすぐに話だした。
「イルカ!」、「イルカ?」、「イルカだって!」、「みんなが探しているイルカか?」
それらの声に、「まちがいないと思う」と兄は答えた。「どこにいた?」、「朝、おれたちが集まる建物だよ」、「今日も言ったけど、気がつかなかったなあ」
「こいつが見つけんだ」兄は弟を見た。「みんなが高い建物にいたので、ぼくは、仕方なしに一番はずれの建物にいた。
いつもは行かないところなので、窓から建物の中をのぞいたら、薄暗かったけど何かがいるような気がした。
建物の中に入ると、ジャンプしているのがわかった。何をしているのだろうかと見ていると、こっちへ来いと合図を送っているような気がしてきたので、そいつの上を飛んでいると、カモメに連絡をしてくれと言っているような気がしたので、すぐに出てきた。
お兄さんに聞いたら、それがイルカというものだと教えてくれた」
「ほら、まちがいないだろう?」兄は、みんなの同意を求めた。
「まちがいない」、「そのカモメというのが大勢やってきて、イルカを探していたものな」、「どうする?」、「ほっとけ。おれたちには関係ない」、「でも、カモメは必至で探している。最近は撃たれては、どこかに連れられていくのに」、「どうしたんだろう?」、「何か悪いことをしたのじゃないか」、「聞いたところでは、そのイルカは、おれたちだけでなく、人間を助けようとしているんだって」、「それなのに人間に捕まっている」、「まあ、同じ空の仲間として、そのイルカがいたぐらいは言うべきだろう」、「それがいい」
「まず、みんなで確認しよう」、「でも、大勢で行くとまずいぞ」
そこで、兄と弟が先頭になって、10羽ぐらいがその建物に向かった。
そこは敷地の一番はずれで、裏門近くにあった。しかも、大きな木々に囲まれているので、人間どころか鳥でも見落とすような建物だった。
まず弟が、窓枠に止まり、兄たちも、さりげなく止まった。
「あそこだ!」弟は声をひそめて言った。みんな見下ろした。「まちがいなくイルカだ」、「捕まっているという感じだな」、「じゃ、カモメに教えに行こう」、「しかし、最近、この近くには来なくなった」、「海に行こう」、「でも、行ったことがない」、「海には、おれたちのような小さなものを食べるものもいると聞いたことがある」
「よし、わかった。カモメは早く教えてくれと急いでいたので、行けるものだけで行こう」兄はそう提案した。
そして、6匹のものが行くことになり、残りの4匹は、みんなに報告をするために戻った。
小鳥は空高く上がったかと思うと、一目散に海に急いだ。
小鳥は、日頃海にはいかないが、ここは港町なので、海はすぐ近くにあり、そのまま南に進んだ。
大海原が広がっていた。そして、大空もどこまでも続いていた。遠くに黒々したものが動いている。あれを追いかけよう。兄はみんなに声をかけた。確かにカモメだ。しかし、オリオンを探しているカモメではないものもいるので、小鳥たちは、近づいては様子を見た。
ようやく、ここで仲間となったカモメ4羽に出会った。「ほんとか。どこにいる?」
「おれたちがいつも集まっている建物です。狭い場所に閉じこめられています」
「ありがとう。ただし、これからどうするかはおれたちだけでは決められないんだ。
それで、きみたちについていくのと、幹部に報告するのに分かれることにする。それじゃ、その場所を教えてくれ」小鳥は戻り、2羽のカモメがついていった。
別の2羽はシーラじいさんのカモメを探した。さらに南下すして、ようやく、シーラじいさんと行動を共にカモメを見つけた。
「見つかったか」シーラじいさんのカモメ2羽は大きな声で叫んだ。
「今、別のものが場所を確認しに行っています」
「大丈夫か?そんな建物なら、ぼくらに対しての警戒も特に強いはずだ」
「小さい鳥が場所を教えてくれるので、それを空高くから見ます。それから、こちらに戻ってくることになっています」
「それなら安心だ。じゃ、その2人を待っていてほしい。ぼくらは、シーラじいさんに連絡してくる」
カモメは、シーラじいさんやリゲル、ミラたちがいる場所に向かった。
ちょうどリゲルがまわりの様子を見ていた。それを認めたカモメは急降下した。
「リゲル、オリオンがいました!」
「見つかったか!どこだ?」
カモメは、多分イギリスの海近くにある建物だと思いますが、それを確認したものがもうすぐ帰ってきますと報告した。
「それじゃ、後を頼む」と言って、シーラじいさんたちがいる場所に急いだ。
ベラがいたので、「オリオンが見つかったぞ」と叫んだ。ベラも、「見つかったのね。よかった」と喜んだ。そして、「すぐにシーラじいさんに伝えてきます」と言った。「そうしてくれ。ぼくは他のものに言うから」
2人は、それぞれの方向に急いだ。
30分後には、すべてものが集まり、喜びあった。誰からともなく、「いよいよ作戦開始だ」という声が上がった。
いつもは沈着なリゲルも、その声に押されて、「シーラじいさん、すぐ行きましょう」と言った。
「待て、まずアントニスに連絡をしなければならぬ。それから、アントニスは、大勢の仲間に連絡をしてくれるはずじゃ。
それに、大陸に沿って北に向かうのは危険じゃ。作戦はまだ決まっておらぬ」と、リゲルたちを戒めた。