シーラじいさん見聞録

   

アントニスは、ブラウンとの話がすむと、ミセス・ジャイロに電話をした。
1回のコールでミセス・ジャイロが出て、「オリオンの居場所はわかった?」と大きな声で聞いてきた。
アントニスは、「いや、まだなんですが、今の状況を話します」とあわてて答え、シーラじいさんたちが地中海を出たこと、そして、新しい仲間がソフィア共和国の幹部を探してくれることなどを話した。
「そうだったの。ニンゲンのために命をかけているオリオンを捕まえるなんて許されないわ。ジムもわたしも、すぐに動けるようにしているから、何でも言って」
「海と陸、そして、空からも全力で探していますから、必ず見つかるはずです」
「味方のカモメもかなり増えてきたわよ。わたしが、どこかの施設を見張っていると、みんなく来てくれるの。何か手紙がある?と聞くと、申しわけなさそうにしているわ」
「そうですか。ぼくも、シーラじいさんに新聞や雑誌を渡しているのですが、北のほうは警戒が厳しくて、まだそちらにいけないようです。もちろん、オリオンがどこにいるかわかれば、どんな危険なことがあってもそこに行くでしょうが」
「こちらに来れば、わたしたちも戦うつもりよ。ジムは昔の仲間から追われているけど、オリオンを助けるためなら、自分がどうなってもいいと言っています」
「ありがとう。これからは、どんなことでも連絡をします」
「こっちでもオリオンを探します」

数日後、いつもより大勢のスタッフが来て、オリオンを別の水槽に移した。
そこは、検査が行われた水槽の4,5倍はある大きさだった。しかし、検査をするための器具は見当たらなかった。
やはり、何かが起こるようだ。ぼくを海に連れていき、仲間が呼びよせようという作戦か。
しかし、そこにリゲルたちがいると厄介なことになるぞ。オリオンは、ゆっくり泳ぎながら、今度起こるかもしれない状況を考えつづけた。
そして、水槽の様子を見た。照明は前の水槽より暗いが、天井近くは明るい。
天井近くの壁には、窓があって、そこから光が入っているようだ。それに、風を感じるから、窓は開けられているのか。
ただ、窓には柵があって、外から入ることはできないかもしれない。仲間のカモメが手紙を渡そうとしたことがわかったので、カモメさえ入れないにしているのかもしれない。
ここを出ることはむずかしそうだ、しかし、あきらめてはいけない。必ずチャンスはある。オリオンは、自分にそう言い聞かせた。
次の朝早く、水面に映る光に何かが動くのが見えた。オリオンは、光が差しこむほうを見上げた。
何かいるようだが、下からはよく見えない。それで、反対側から見上げたが、逆光で見にくい。
しかし、あの動きは鳥だ。だが、カモメじゃない。小さな鳥だ。動きが止まった。こちらに気づいたか。
オリオンは、鳥の気を引くために、ジャンプした。もちろん、カメラは監視しているだろうから、何気ないように動いた。
何も変わらない。しかし、まだいるように思える。「降りてこい」と必至で願いながら、さりげなく動いた。
もう飛んでいってしまったかと思ったとき、自分の上をゆっくり回っているのがわかった。
オリオンは、それが監視カメラに映らないように、カメラの死角になるほうに動いた。
鳥もついてきてくれた。そのまましばらく様子を見た。
気づかれていたら、ニンゲンは来るはずだ。しかし、誰も来ない。
オリオンは、もっと近くまで来てくれというように合図をした。鳥は、スズメぐらいの大きさだが、色はよく見えなかった。
まだ子供のようだが、怖がらずにオリオンの顔近くまで降りてきた。
オリオンは、その鳥に向かって、「カモメ、カモメ」と小さな声で叫んだ。いや、声に出さずに、空気で伝えたといってよかった。
「カモメに、ぼくはここにいることを伝えてくれないか」
鳥は不思議そうに聞いていたが、「さあ、行ってくれ」と言うと、そのまま飛びたった。
オリオンは、鳥を見送りながら、「頼むぞ」と小さな声をかけた。

その鳥は、兄弟がいる場所に戻った。
「どこに行っていたんだ!みんな心配していたんだぞ」兄は、甲高い声で怒った。
「ごめん、ごめん。妙なものがいたんだ」
「妙なもの?」
「いつも海で仲間で遊んでいるやつ」
「どこが妙なんだ?」
「カモメにぼくがここにいることを教えてくれって」
「そいつはどこにいた?」
「あそこの建物だよ。いつも朝行く。そろそろ帰ろうかな思っていると、中で何かがいるような気がした。いつもは誰もいないはずなのに。
それで、下をのぞくと、何かが動いていた。海で見るやつだった。帰ろうかなと思っていると、こっちへ来てくれといているような気がしたので、中に入った。そうしたら、ぼくに、カモメにぼくがここにると伝えてくれとと言うんだ」
「最近、空にいる連中が、イルカを探しているということをよく聞くが、関係あるんだろうか」
「海で楽しく遊んでいるような雰囲気じゃなかった。どこか殺気だっていた」
兄弟は、そう言いながら、仲間が集まっている公園に向かった。

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