シーラじいさん見聞録

   

2人はハオリムシの子供に近づいた。そのとき、子供は、上を向いて、大きな声を出した。
「それじゃ、パパ、話してよ」
「おまえに言ったとおりだ。おまえから言ってやれよ。わしは話すことが苦手だ」
大きなハオリムシが大きく揺れた。
「でも、この人たちは、ほんの細かいことでいろいろわかるんだ。受け売りでは、それが言えないもん」
「しょうがないなあ。話すけど、昔のことで、しかも、子供のときだから、ほとんど忘れているぞ。
子供のとき、近くでぶるぶるという音がよく聞こえたような気がする。その音がすると、体が勝手に動くんだ。ここには、そんな音がするものなどないからな。ただ、それだけだ」
「大きなものでしたか?」オリオンが聞いた。
「それはわからんな。子供のときは、食べものを体に入れることに夢中だったからな。
その音がすると、友だちとおもしろがって、それに合わせて踊ったことがある」
「それなら、硫化水素が、いや、食べものが止まっているときとちがいますか?」
「あっ、そうだよ。そうにちがいない。パパは、昔から食べものを体に入れるときは、話しかけても返事しないもの」
「馬鹿言え。味わって体に入れているんだ」
「大体いつ頃ですか?」オリオンは話を戻した。
パパは、また体を揺すって思いだそうとした。
「そうだな。わしのじいさんがまだ生きているときだ。じいさんに、あれは何だと聞いたような気がする」
「おじいさんは、どう言っていたの?」子供が、話を整理しようとした。
「じいさんも聞いたことがないとか言っていた。それから、しばらくしてじいさんは死んだ」
オリオンは、パパは50才ぐらいか。しかし、ハオリムシのことは、シーラじいさんに聞かなければならないと思った。
そして、「その後は、聞こえなくなったのですね?」と聞いた。
「そうだろうな。そんなことはすっかり忘れたからな。わしがおぼえていることはこれだけだ」
「何か。参考になったかい?」子供が聞いた。
「もちろん。そいつは硫化水素を避けているようだし、音から考えてセンスイカンにちがいないだろう」
「でも、センスイカンの中に入れば、わざわざ避けなくてもいいのだろう?」子供は、オリオンたちの話を理解しているようだ。
「硫化水素が出てくると、視界が悪くなる。それで、止まったときに、中に入ったんだろう」リゲルが答えた。
「後は、どうして穴に入る必要があるかだな」子供は、じっと考えて言った。
「そうだ。それはもう少し調べないといけない。しかし、もうすぐ、食事の時間のようだよ。ぼくらは離れる。次止ると、挨拶しないで中に入るよ」
「わかった。ぼくも、もっと調べておく」
2人は、においがしだした穴から、いつも待機する場所に移った。
「やはり、センスイカンは頻繁に入っていたようだな」リゲルが言った。
「そうだろうな。今から、シーラじいさんに、今の話や一つ目の怪物について聞いてもらおう」
2人は、シーラじいさんがいる場所に向かった。そして、この2日間の話をした。
「そんなものがいたとはな。やはり、こことはちがう世界があるのじゃろか。よほど気をつけないと生きては帰れぬぞ。
センスイカンについては、おまえたちが考えているおりじゃろ。何か調査をしていたのか。地質か鉱物か」シーラじいさんはじっと考えた。
「鉱物?」リゲルが聞いた。
「鉱物とは、岩のようなものじゃが、岩はいろいろなものが集まってできている。
そのいろいろなもの一つ一つが鉱物といわれている。
それらは、ニンゲンの文明になくてはならぬものじゃ。いや、それらを使うことによって、文明ができたともいえる。
鉱物の中でも、特に少ないものがレアメタルというが、それをもてば、繁栄が約束されるので、どこの国も探しているようじゃな」
「それが穴の中にあったのでしょうか?」リゲルが聞いた。
「わしが読んだものには、そういうことは書いてなかった。すると、どこかの国が秘密で探しておったのかしれないな。
また、それを見つけても、取りだしたり、海から上げたりするのは相当むずかしいようだから、あきらめたのかしれん」
「センスイカンが頻繁に来ていた理由がわかりました。今後どうするかみんなと相談します」
「今思いだしたが、ハオリムシは長生きで、2、300才は生きる生き物のようじゃ。そして、あの穴のまわりから動かないので、まだまだ情報を集めてくれるかもしれないな」
2人は、ミラたちがいる場所に戻った。そして、見聞きしたことをすべて話した。
「ますます謎が深まってきたじゃないか!」シリウスが叫んだ。
「今度はわたしたちも連れてって」ベラも負けていない。
「それじゃ、みんなで行こう」ミラも言った。
「いや、もううしばらく、ぼくたち2人で行くよ。あの怪物を刺激しないほうがいいと思うんだ。話がついたらお願いするよ」オリオンが3人を抑えた。
「話をするって?」シリウスが聞いた。

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