シーラじいさん見聞録

   

「危ない。みんな下がれ」ミラが叫んだ。そして、赤い光の前に立ちふさがった。すると、赤い光の形が崩れ、ミラに襲いかかった。
しかし、どんなものかはわからなかった。あまりに動きが早いので、暗闇の中では形を感じることさえできないのだ。
ベラが叫んだ。「ミラぐらい大きな体をしている。ミラに巻きついている」
「えっ、足があるのか!」誰かが大きな声を上げた。
「そうよ。いっぱいある。ミラは解こうとしているけど、相手はまだ締めつけているわ」
「よし!オリオン、シリウス、足を攻撃しよう。ベラはやつの動きを見ておいてくれ」
リゲルは、そう叫ぶと、怪物に向かっていった。オリオンとシリウスも後を追った。
巨大な影が激しく動いていた。赤い目は見えたり見えなかったりした。絡みあったまま動いているのだ。
ここだと思っても、すぐに動くので足がつかまらない。ようやく足のありかがわかり、噛みついたが、相手に損傷を与えるようには思えなかった。まるでイルカやシャチの胴体ぐらいはありそうで、しかも、岩のように硬いからだ。
このままではミラが危ない。ミラは体を激しく振っている。リゲルたちは、飛ばされないように我慢した。
その時、ベラが叫んだ。「リゲルは左。オリオンは右。シリウスも右に行くのよ。足が細くなっているから」
3人は、ベラから指示されたほうに動いた。確かに足は細くなっている。なんとか歯を食いこませることができる。
さらに動きに従って、ぐいぐい歯が深くなった。そして、プチンという音が、3回響いた。足がちぎれたのだ。それに乗じて、ミラがさらに力を入れると、足が一気に外れた。
3人の歯は深く食いこんでいたので、すぐには外れず、足を引っこめた拍子に遠くに飛ばされた。
3人があわてて戻ると、今度はミラが怪物を攻撃していた。足の攻撃を避けるために、怪物の上から、体当たりした。
怪物は、ぎゃという叫び声を上げた。しかし、ミラの体から抜けだした怪物は、ミラの上に行こうとするためか、赤い目がぐんぐん上に上がった。
ミラも、後を追った。しかし、お互い天井にぶつかったので、。そこでまた揉みあった。
ミラは、また怪物の上にのしかかった。しばらくすると、赤い光はだんだん小さくなっていった。怪物は逃げたのだ。
リゲルは、「ミラ、戻ろう」と叫んだ。全員、無我夢中で海面まで戻った。そして、息が整うやいなや、ミラがいるところに急いだ。
ミラの体はまだ激しく動いていた。リゲルたちは、ミラの体を調べた。腹にものすごい歯形があり、あちこちから血が流れていた。
「ああ、こんなにやられている!」リゲルが叫んだ。
「これだけ噛まれたら、ぼくらには耐えられそうにない」シリウスも叫んだ。
「クラーケンだろうか」
「まさか。部下がいつもいるはずだ」
「あの赤い光はなんだ」
「多分目だ」
「すると、一つ目の怪物か」
「ミラは、パパの敵(かたき)と思って戦ったのだろうか」
みんな、ミラを見た。大きな目から涙が流れていた。どんな涙なのか考えた。
その時、ミラが目を開けた。「ミラ、大丈夫か?」リゲルが聞いた。
小さな声で、「大丈夫です。みんなは無事ですか?」と聞いた。
「ああ、きみのお陰でみんな無事だよ」
「それはよかった。赤い光を見たとき、てっきりセンスイカンだと思って、止めようと向かっていくと、何かがぼくの体を締めつけてきたんです。その後は無我夢中でさっぱりわからないのです」
「あの穴に住んでいるようだけど、一つ目の怪物だ」
「あの光ですか?」
「そうだ。怒るほど光が強くなるようだ。それで、ベラが怪物の様子を見てくれたので、足の細い部分を噛みきることができた」
「そうか。ベラ、ありがとう」
「何言っているの。ミラが前に出てくれなかったら、襲われていたわ」ベラがあわてて言った。
「それじゃ、あのセンスイカンもやられたんだろうか?」シリウスが聞いた。
「わからないな。しかし、厄介なことになった」リゲルが答えた。
「もう一度穴に行ってくるよ」オリオンが言った。
「そうだな。ぼくも行く」リゲルが、そう言うと、シリウス、ベラだけでなく、ミラまで動きだした。
「いや、オリオンと行ってくるよ。ミラはもう少し休んで、シリウスとベラは、ミラを見ておいてくれ」
2人は海底に急いだ。しばらく待っていて、硫化水素が止まるやいなや穴に向かった。
ハオリムシの子供は、目ざとく2人に気づいて、「何かあったようだね」と声をかけた。
「2番目の穴の奥に怪物がいた。なんとかみんなで追っぱらったけど手強かった」オリオンが答えた。
「それはたいへんだったな。きみらが言っていたセンス・・・」
「センスイカン。調べようとしたときに、一つ目の怪物が出てきたので、どうしてあそこにいるのかわからないままだ」
「きみらの参考になるかわからないが、こんなことがあったんだ」

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