テレビ番組
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「テレビ番組」
――いよいよ今年も動きだしたな
――ほんまや。みんな忙しそうに歩いている。どこへ行くのか知んけど
――人のことほっとき。ぼくら、漫才50年やっているゆうても、時代に取りのこされたら世間から見向きもされんようになるで
――漫才の骨董品では食べていかれんのか
――捨丸師匠のようなことゆうていたらあかん。若手がどんどん出てきているからな
――どないしたらええのや
――今どきのこともゆわんとあかんのや。しかも、時代はものすごう早う動いとる
つい10年ほど前はパソコンゆうもんが時代の先端やったが、すぐにケータイになって、今はケータイなんかもっていたら、古臭いもんもってとゆわれる
――今は何や
――スマホやろ。街でも楽屋でもみんなやっているやろ。こうやって
――ああ、あれか。最初見たとき、鼻くそこすりつけているのか思ったわ
――あほなことゆうな。きみの娘はんもやっているやろ
――やっている、やっている。最近は嫁はんもやっている。あんたもやりゆわれるけど、時代はどんどん進むから、もうすぐスホで電話できるようになるはずやから、そうなったらやるゆうているねん
――最初からできるわ!
――ほんまかいな。せやけど、あんなもんをはじめて考えた人はえらいな
――確かにな。「はじめて」ゆうのに値打ちがある
――ぼくも子供のときから、「はじめて」にこだわってきたんや
――たとえばどんなことや?
――雪が降った日は朝早う起きてな・・・
――誰も通ってないとこを歩くのか
――ちがう。ションベンするのや。ずぼずぼ黄色い穴が開くで。あれが気持ちいい
――勝手にせえ。本来、「はじめて」は感動を与えるもんや。「はじめてのおつかい」ゆうテレビ見たことないか?
――あるある。あれ見たら泣けるわ
――そうや。親から頼まれたもんを一生懸命買うとしている姿には胸打たれる
――ええこと考えたわ!これも泣ける番組になる
――どんなんや。ゆうてみ
――「はじめてのおつかい」の向こうを張って「はじめての徘徊」はどうや?
――「はじめての徘徊」?
――認知症のとしよりが、はじめてそこらへんを徘徊するとこをカメラがおいかけるのや
――そんなもん何の役に立つんや?
――わしら65才の以上のとしよりは人口の3割、4割になっているそうやけど、そのうち2割、3割が認知症で、800万人もいるそうや。視聴率は高いで
――えらい詳しいな
――今朝の新聞に書いてあった
――それで、どんな番組や
――まず、「お義父さん、ちょっと用事で外出しますけど、留守番できますか」と嫁がゆうのや
――としよりは、たいがい「わかった」とゆうわな
――嫁は鍵をかけて出るけど、としよりは勝手口なんかからでよる。。門扉も鍵がかかっているけど、塀を乗りこえる
カメラがおいかけるで。「はじめておつかい」では、ここらへんで、近藤房之助の「しょげないでよBABY」がかかるけど、「こけないでよジジイ」を流す
1時間ほど立つと、「家に帰らんあかん」と気づいたとしよりは、また1時間ほどかけて何とか家に帰ってくる
嫁が涙を流しながら、「お義父さん、おかえり」と迎えるわけや
――あほくさ
――せやけど、9割以上のとしよりが家に帰られへんし、中には行方不明になるとしよりもいる。それが年間1万人
――CMでゆうとるやないか
――ぼくも、来年には出よか思うとるねん
――もうええ。やめさせてもらうわ