常吉に起きたこと(前編)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(210)
「常吉に起きたこと」(前編)
昔のことです。都から遠く離れた田舎に小さな村がありました。家は数十軒ありますが、どの家も隣の家とはかなり離れています。
特に常吉の家は山のそばにあって、いつも山に出かけては薪やきのこなどを取って親の手伝いをしています。
ある冬のことです。夕べから山がごおーごおーと鳴っていましたが、朝起きて外を見ると、案の定雪が降っています。常吉の膝ぐらい積もっています。
雪景色をよく見ようとしても、よく晴れているので、目がまぶしくて開けておられないぐらいです。
これなら、野良仕事の手伝いは行かなくてもすみそうです。そう思うとわくわくしてきました。
朝ごはんを食べてすぐに外に出ました。夢のような光景がどこまでも広がっています。寒くはありません。さあどこに行こうかと思ったとき、あっと叫びました。
誰も歩いていないはずなのに、外の道から家の前庭に入ってそれから出ていく足跡が続いているのです。
誰か村の人が用事で来たのだろうかと思いました。しかし、親は外には出ていないと言っていましたし、もし出たのなら出ていく足跡があるはずです。
親に言おうとしましたが、昨日の足跡が何らかの理由で残っているかもしれないので、そのまま遊びに行きました。
途中、村の子供も外にいたので、みんなで雪合戦したり、相撲を取ったりして遊びました。
その夕方も急に曇ってきて風が強くなりました。朝になると、新しい雪が積もっていましたが、庭に出てみました。
やはりありました。昨日遊んでいても気になっていたので、日が暮れる前に庭の足跡を調べておいたのです。新雪で埋もれているはずですし、場所も違います。
しかも、今日ついたような足跡です。
足跡を見ると、今度も村の中ほどからきて家に寄ってから山に向かっています。
親に聞くと、誰も来ていないと言っています。
常吉は、これは何かあるなと思うと、なんだか楽しくなってきました。
しかも、今日も野良仕事はありません。今日こそこの謎をつきとめなければなりません。
常吉は朝ごはんを食べてから、父親が作ってくれた「かんじき」を足につけて、「常吉や、早く帰ってくるんだよ」という母親の声を聞きながら外に出ました。
今日はまっすぐ足跡の跡をついていきました。足跡はどこにも寄らずに山道に向かっています。
山は大人でも歩きにくいほど積もっています。しかし、足跡は雪に埋もれながらも、こけたような気配もなく続いています。常吉は行けるかどうか心配になりました。
山道は目をつぶってでも歩けるほどよく知っていますが、雪に埋まってでもしたら死んでしまいます。
昔、村の大人が山に野兎か何か取りいって死んでしまったことがあるからです。
しかし、足跡は続いています。常吉はここまで来たのだから、向こうに見えるあの大好きな松の木まで行って帰ろうと思って、用心しながら山を登りました。
ようやくその松の木に着きました。そして、汗をぬぐいながら、「雪が消えたらまた来るかな」と松の木に声をかけて帰ろうとしました。
そのとき、何か声が聞こえました。風が木の枝を揺らしているのかと思って耳をすませましたが、誰かの声尾のようでした。さらに耳を澄ませると、「よくお越しくださいました」というようにしか聞こえません。
常吉はあたりを見まわしました。木の間に目が行ったとき、「おまえか!」と叫びました。

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