ピノールの一生(10)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(107)

「ピノールの一生」(10)
ブリーズ島は、世界でも有数の別荘地で、プライベートビーチが売りだと聞いている。
最高ランクの別荘は、その家族しか遊べないビーチがあるが、モイラが閉じ込められている別荘は、多分そこまではいかないだろうけど、その区画の家の者だけしか入れないビーチだろうと、ピノールは調べていました。
別荘やビーチの地図はほとんど頭に入っていたので、おおよその見当をつけて、海のほうに行きました。
道と平行に電動カートがあって、老人などはそれを利用するようになっています。そして、道の両側には林が続いています。
林が切れるとビーチです。暗いけど、海が広がっているのがわかります。星空で輝いています。
それぞれのビーチには、着替えたり、休憩したりできるハウスがあります。ハウスの横には、ヘリポートがありますから、ホテルから食事を運ばせることもできそうです。しかも、林からそう離れていないので、見張るのには好都合です。
ピノールは、林まで戻り、隠れる場所を探しました。そして、1本の大きな木を見つけました。「ここから、部屋の中を見ることができる。しかも、潮の塩分から体を守ることができるぞ」ピノールは、そこにすわり、朝を待つことにしました。
ようやく昼すぐになり、気温がぐんぐん上がってきました。湾の向こう側のビーチには人間が動いています。
カートの音がしてきました。ピノールは注意してそちらを見ました。カートから下りきました。しかし、ケイロンたちではなさそうです。老人が4,5人歩いてきます。やがて、ハウスの中に入りました。
「どうしたんだろう?変更したのか」と思っていると、またカートの音がします。「あっ、ケイロンたちだ。モイラもいる」
ケイロンが先頭に立ち、後ろに、4人の家来に囲まれたモイラがいます。そして、ハウスの中に入っていきました。
30分ほどして、家来たちが海に向かいました。また、30分ほどして、ケイロンとモイラが出てきました。姿は小さくなり、きらきら輝く海で遊んでいるのが見えました。
それを見ていると、「モイラは楽しいのだろうか」と思いましたが、「いや、そんなことはないはずだ。でも、楽しそうだったら、ぼくがやっていることには意味がない」とも考えました。
「とにかく、ぼくが助けに来ていることだけは伝える。それで、いっしょに逃げなければ、1人で帰ろう」と決めました。
今度はみんなで海から戻ってきました。そして、ハウスに戻りました。「さあ、行くぞ」ピノールは、林がある崖の端まで進みました。
楽しそうに話しているのが窓ガラスから見えます。今度はゲームをしています。みんな夢中になってきたようです。
ピノールは、崖をすべりおちて、背をかがめながら、ハウスの背後まで近づきました。
そっと覗くと、さっきまでみんなそこにいたのに、モイラが一人でいました。
ピノールは窓ガラスを軽く叩きました。モイラがこっちを見ました。そして、ピノールに気づくと、目を大きく開けました。
ピノールは、「きみを助けに来た。チャンスがあれば逃げろ。カートのところで待つ」と信号を送りました。
モイラはうなずいたような気がしましたが、そのとき、向こうのドアが開いたので、ピノールはすぐに顔を伏せて戻りました。
そして、カートの近くでモイラを待っていましたが、こちらに走ってくる様子はありません。もう1時間は立っています。
「ぼくを捕まえようと家来も来ないから、ぼくのことを言っていないことは確かだ。でも、逃げる気もないかもしれない」と思ったとき、一人こちらに走ってくる者がいます。
モイラです!ピノールは、「モイラ~」と心の中で叫ぶと、迎えに向かいました。
そして、モイラの手を取ると、「さぁ、逃げるんだ!」と叫びました。そのとき、「待て!」という声が聞こえました。
ちらっと降りかえると、ケイロンの部下4人が追ってきます。
向こうは最新式のロボットです。こちらは、数百年前のロボットで、しかも、潮風で錆びて関節がうまく動きません。
「モイラ、1人で逃げてくれ。ぼくはもう逃げられないら」と叫びました。
「いやよ。一緒に逃げましょう」
「それじゃ、林の中を逃げよう。あそこなら、やつらをまけるかもしれない」
2人は林に飛びこみました。そして、後ろを振り向きもせずどんどん逃げました。

 -