ニックとオオカミ(前編)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(212)
「ニックとオオカミ」前編
ニックは凍傷で歩くのが辛かった。自然調査隊の一員だったが、小高い山の麓を歩いているとき、雪が激しくなりみんな立ち往生した。
風がきつくその場に立ち尽くすしかなかった。雪が止まないので、声を掛けあいながら、小高い山に向かった。そこなら、しばらく休めるところがあるかもしれないと考えたのだ。
しかし、風がきつくなり、仲間の声も聞こえなくなった。そして、雪崩が起きた。雪の中から無我夢中で這いだしたが、持っていたトランシーバーがなかった。
大きな声で5人の仲間を呼んだが誰からも返事がなかった。
食料は全員がそれぞれ1週間分ぐらいは持っていたので、少しは余裕があった。
二日後、ようやく雪は止み、青空さえ見えるようになった。
名前を呼び、あたりを探したが答える者はいない。ただ、やまびこが響くだけだった。ひょっとして雪崩の巻き添えにあったのかしれないと思って、思いつく場所を掘ってみたが、手掛かりはない。
ニックはどうしようか考えた。もし仲間に何かあるのであれば、早く助けを求めなければならない。
それで、調査のスタート地点に戻ることにした。誰かが連絡していればいいが、もし全員がトランシーバーを失っていても、それで異変を察知して本部は捜索してくれるにちがいない。きっとスタート地点には誰かがいるだろうと思ったのである。
しかし、雪はまた降ってきたので、なかなか進めなくなった。目印にしていた山も見えない。
雪は腰の高さまである。焦れば焦るほど絶望感が高まってきた。「もうだめか」と何度も思った。
また雪が止んだとき、目印の山が見えた。方向はまちがっていないと確信したが、何気なく左のほうを見たとき、遠くに木のようなものが数本見えた。
しかも、スタート地点よりはあるかに近い。すでに足の感覚がなくなりつつあった。
このままでは凍傷で足を切断するようなことになりかねない。そう思うと恐怖心が突然襲ってきた。
すぐに左のほうに行くことにした。しかし、なかなか前に進まない。ただ木が見えているので、絶望感を少しは抑えることはできた。
休むことなく動き続けて3日後木のすぐそばまで行くことができた。
木は数本しかめていなかったが、案外密生していて、そのおかげで、雪がそう積もっていなかった。
ニックはそこで少し休んだ。ただ眠ると命を落とすおそれがあるので、懸命に睡魔と闘いながら休んだ。
このままでは死んでしまう。もう少し奥に行こう。ゆっくり休める場所があるかもしれないのだ。ニックはそう自分に言い聞かせた。
足はさらに感覚をなくしていたが、木につかまりながら進んだ。
その日の夕方であった。木と木の間に何かあるような気がした。しかし、今までも、あれは!と思って近づくと、木が倒れて隣の木に倒れかかってることがあった。
今度もそうだろうと思ったが、足は無意識にそちらに向かった。近づくと、それは小屋らしきものであった。
ニックは夢かと思ったが、それを打ち消すためにさらにそこに近づいた。
小屋だ。助かった。そう思いながらも少し小屋を見た。
4本の木を柱にしてそれに横に木を結びつけている。一辺3メートルぐらいの広さだ。高さは背の高さぐらいはある。
寒さをしのぐことはできないだろうが、うまくいけば少しは眠ることはできるかもしれない。ニックはそう考えてから、ナイフを取りだした。
ノックをした。しかし、誰もいないようだ。よく見るとドアの隙間と横板の隙間が針金でくくられている。錠前にしているようだ。
かなり太い針金だが、さびついたところもある。ニックはそこにナイフを当てて傷をつけた。そして、木の太い枝を梃(てこ)にして力を入れた。何回か続けると針金は折れた。

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