ニックとオオカミ(後編)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(213)
「ニックとオオカミ」後編
ニックはナイフを構えてドアをゆっくり押した。ドアが針金で括(くく)られているので誰もいないはずだが、もし大型の動物がどこからか入っているかもしれないからだ。
外は雪で明るいが、内部は暗くてよく見えない。立ち止まって様子を見た。何もいないようだ。
目が慣れてくると、奥の壁の下に道具のようなものが置いてある。近づくと、毛布や太い枝の塊があった。その横には、のこぎり、釘、ロープといった道具もある。
しかも、地面近くの横板は寒さを防ぐためか、外から風が入らないように隙間なく張りつけられているのがわかった。
ニックは、これなら眠っても凍死しないだろうと安心した。
幸いまだ火をおこすこともできる。すぐに小屋の真ん中で乾いた枝を使って小さな火を起こした。
コーヒーを入れてパンを食べた。ようやく体が温まってきた。少し希望が湧いてくる。
しばらくすると、いつの間にか寝てしまっていた。小屋の外で音がするので目が覚めた。
すぐに上半身を起こして様子をうかがった。誰か来たのか。しかし、隙間から見えるのは真っ暗な夜だ。
誰かいても、中からドアを針金で括りつけたからすぐに入ることはできない。
人間なら声をかけるはずだ。しかも、こんな暗いときに捜索はしないはずだ。
横板にぶつかったり、かみついたりするような音がする。これは人間でない。それなら、開けることはない。
ニックは、もう一度コーヒーとパンを食べた。しばらくすると音はしなくなった。体が暖かくなると、また眠ってしまった。
翌日早く目が覚めた。右足は痺れたままだが、体力はかなり戻ってきたようだ。ナイフを持ってドアをそっと開けた。すると足元に何かいる。顔からしてオオカミのようだ。目を閉じている。後ろ足からかなり血が出ているようだ。雪が真っ赤に染まっている。どの方向から来たかもわかる。
ニックは思わず「入るんだ!」と叫んだ。その声で目を覚ましたオオカミはゆっくり立ち上がって中に入ってきた。
また火をおこして、その横にすわらせ、止血をしたり、包帯を巻いたりした。
オオカミはおとなしくされるままにした。治療が終わると、オオカミはまた眠った。
翌日から、残り少ない食料を二人で分けあった。オオカミは徐々に快方に向かっていったが、ニックの右足は大きく膨らみ、痺れたままだった。これでは雪の中は動くことはできない。しばらくここにいるしかない。
数日して、オオカミは出ていくそぶりを見せた。
ニックは、「大丈夫か?」と聞いた。歩き方を見ると折れているかもしれないからだ。「しかし、おまえには親兄弟がいるだろうから、おまえの判断に任せるよ。行ってもかまわないが、何かあれば戻っておいで」と言葉をかけた。オオカミは雪の中に出ていった。
二日後、オオカミは遠くで何か動くのを感じた。そちらに向かった。やはり人間だ!10人近くいる。実は調査隊の仲間の4人は雪崩で数キロ先まで流されたが、うまく岩山で止まって九死に一生を得ることができたのだ。
一人取り残されたニックがそうと知らず仲間を探しているうちに、雪の中で難渋したのだった。その仲間の通報で救助隊がニックを探しに来ていた。
そのオオカミは背後から徐々に近づいて一人の人間に噛みついた。人間は慌てて逃げて大きな声で助を求めた。仲間が集まってきた。一人の人間が猟銃で威嚇した。
オオカミは逃げたが、ゆっくりした動きだった。ときどき振り返った。捜索隊は、オオカミのことを言忘れてニックを探した。
ところが、オオカミはまた戻ってきて、また人間を噛んだ。「ニックはオオカミに襲われたかもしれないぞ」誰かが言った。
「やつはけがをしている。雪に血がついている。追いかけよう」
捜索隊は血の跡を追った。そして、4,5時間後にようやくオオカミを見つけた。
「気をつけろ!仲間がいるかもしれない」猟銃をもった隊員が先頭に立ちゆっくり進んだ。
「いた!」誰かが叫んだ。すると、バーンという音がした。猟銃を撃ったのだ。
オオカミは倒れた。小屋にいたニックは音を聞いてドアを開けた。そして、数十メートル先で何かがが倒れているのを見えた。「ひょっとして」と思い、そちらに急いだ。「あのオオカミだ!」
オオカミは立ち上がりニックのほうに近づいた。また猟銃が鳴り、ニックが倒れた。ニックは声を絞って「やめろ!」と叫んだ。
そして、ニックをかばおうとするオオカミに、「行くんだ!」と叫んだ。
オオカミは躊躇したようだったが、ニックが、「今は逃げろ!」と言うと、小屋の後ろに回った。それを見た後、ニックの意識は消えていった。

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