雲の上の物語(A)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(206)
「雲の上の物語」(A)
「すごい風だったなあ」ビニール傘の友だちがやってきました。
「ほんとだ。仲間を助けるのはもう少し風が収まってからしろという指示が出ていたので、ビルとビルの間に避難していた」仲間も一人でいたので、ほっとして答えました。
「こんなときは前に行ったことがあるオーストラリアやニュージーランドの空でのんびりしたいものだ」
「あまり台風が来ない北海道を担当している友だちが言っていたけど、夜中にゴオーという音が聞こえてたそうだ。振り返ると何か光るものがものすごい速さでこっちに向かってきたので慌てた」
「何だい?」
「例のミサイルさ」
「北朝鮮のミサイルか」
「そうだ。仲間が10人ぐらいいたそうだが、みんなちりぢりに逃げたそうだ」
「大丈夫だったのか」
「幸いミサイルは上を通っていったそうだが、怖かったと言っていた」
「これからはどこの空にいても油断できないな。これからどうなるのだろう?」
「チュー助にでも聞かなくてはわからんなあ。しかし、人間でもわからんから、ああでもないこうでもないと言っているらしいぜ」
「少し自分たちが我慢すればいいのに、政治家は国民にいい恰好を見せたいがために無理なことを言うのだろう。それで戦争がはじまる」
「イギリスのホーキング博士は、『このままでは100年以内に人類は滅びる』と言っているそうだな」
「ほんとか。よく知っているなあ」
「以前、チュー助に、『どうしていろいろなことを知ってるんだい?』と聞いたたら、「きみたちにはチャンスは少ないだろうが、人間が話していることをよく聞けば、今の世界がわかるよ」と教えてくれた。ぼくもなるべくそうしているんだ」
「そりゃいい心がけじゃないか。すると、人間がこの世からいなくなると、おれたちの仲間は生まれないかわりに、すぐに捨てられる不幸な仲間もいなくなっていいこともある」
「まあそうだけど、今空を飛んでいるおれたちも、いずれバラバラに地上に落ちる。つまり、人間が滅ぶと、その次は、人間に作られたおれたちのようなものもこの世からいなくなるわけだ」
「じゃあ。人間がいなくなることは決して歓迎すべきことではないんだな」
「沿うことだ。でも、人間が今の状態なら絶滅するかもしれない」
「人間に任せるしかない。おれたちが世界を知るようになったのは、ボスが、人間に捨てられたおれたちを励まして空を飛ぶようにしてくれたおかげだ」
「それはまちがい。おれは、ボスのためなら骨になるまでがんばるつもりだ。
すでに骨だらけだけどな。それじゃ、新しい仲間を探しに行こう」
「そうしよう」
まだ雨は降っていますが、風は収まったようです。どこかに避難していた仲間もあちこちから集まってきました。
「みんな手分けして探そう。人間がいるところに仲間あり、だ。駅前や大通りを中心に探してくれ。捨てられたショックでどうにでもなれと自暴自棄になっているものが多いが、空を飛んだらまた新しい生活が待っていることを話すんだ」
この話の最初に出てきたビニール傘は、今はボスとなり仲間を作るために世界中を文字通り飛びまわっています。
ボスに教えられたものは幹部となり、若いビニール傘を指導しているのです。
そのとき、仲間が飛んできて、「川が氾濫して車を飲み込もうとしている!」と叫びました。