雲の上の物語(2)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとはヘンな童話100選」の(16)

「雲の上の物語」(2)
まだどこか幼いようなのに、堂々としています。よほど立派な人が主人だったようです。
彼はどぎまぎして答えました。「いや、風景を見ていただけだ」
「でも、体がうきうきしていたよ」黒い傘の笑顔は、彼の気後れを溶かすようでした。
「そうか。でも、ぼくは一人ぼっちで、楽しくとも何ともない」彼は正直に言いました。
「最近ここへ来たんだろう?誰でも、最初はそうだよ」
「きみらは、立派な服を着ているじゃないか。それにひきかえ、ぼくはぺらぺらのビニールだ」
「何言っているんだ。最初主人に大事にされたけど、年を取ったり、持ち主がもっと気に入ったものを買ったりして、見捨てられたものばかりだ。
肩をもつわけじゃないけど、あいつらも、ここまで上がってくるのには、相当苦労しているよ。
主人に、一番大事にされたとか、豪華なホテルへ連れていってもらったとか、自慢ばかりするやつもいるけどね。
それから、ぼくはブランドものじゃないよ。持ち主が、ただ大きくて、地味だというだけで気に入ってくれたんだ」
「それでは、どうして、ここにいるの?」彼は、思わず聞きました。
「主人が病気で入院したんだ。それで、ぼくは使われなくなった。
奥さんや娘さんは、ぼくなんかではなくて、きれいな花柄の傘が好きだから。
それで、いつも「傘立て」で留守番さ。雨の日、花柄が帰ってくると、その日のことを楽しそうに話すのがうらやましくてたまらなかったな。
ある春の日、娘さんが、学校から帰ってきて、ドアを閉めわすれたことがあったんだ。
風が吹きこんできて、カーテンや花を揺らした。ウインドチャイムが気持ちのいい音を立てた。ぼくはたまらなくなった。そう思うと、体がふわっと浮いたんだ。
気がつくと、風に乗って外に出ていたんだ・・・」黒い傘は目をつぶりました。
「あっ、いけない。しゃべりすぎた。ぼくを、男のくせにしゃべりだと思わないでくれよ。
きみを見ていると、ここへ来たときのことを思いだしてしまったんだ」
「いや、ありがとう。きみのおかげで、元気が出てきたよ」
「そう言ってくれればうれしい。その後、主人が亡くなったことを、空の上で知ったが、主人が40代の若さで死ななかったらと思うことがあるけど、これも運命と思うようにしている。
ぼくは、最初は、カラス、カラスとからかわれたけど、なにくそとがんばったんだ。
もっと話したいけど、約束があるんだ。それじゃ、今度」黒い傘は、急いでどこかへ行きました。
彼は、黒い傘の後姿を見て、くすっと笑いました。
あんな堂々とした身のこなしだったのに、ごろん、ごろんと転がりながら走っていくのですから。
「そうか。みんな同じ境遇なんだな」彼は一安心しました。
そのとき、遠くで、また彼を見ているものに気づきました。今度は娘のようです。
彼はそこへ急ぎました。根っからのお調子者ですから、早速、「きみ、きゃわいネェ!」と叫びました。
小さなバラをあしらった上品な服を着ていた娘は、じっと彼を見ていましたが、「何よ、それ。あなたを見損なったわ」と言いました。
彼は、あわてて、「いや、きみが喜ぶと思っただけなんだ」と言いわけしました。

 -