法律

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(124)
「法律」
2110年の某月某日だった。水曜日なのに、東京の繁華街やオフィス街は閑散としていた。車の交通量は多いが、人は、50年前と比べたら100分の1ぐらいしか歩いていない。
しかも、どの人も足早で、観光客のように都会の風景を楽しむということはなさそうだ。
どうしたことだろう。日本は、地震や津波などの天変地異や、原発の事故などの人災で
壊滅したのか。
しかし、高層ビルは、高さを競うように立ち並んでいる。どこを見ても、何か異常なことを示す兆候はない。ただ、人が少ないだけだ。
ビルに人がいれば、何も心配ないが思いながら、私は、グーグルのマップで日本の地図を見た。どこも、教科書で見たとおりの町の名が出ている。
とにかく、人口はかなり減っているとはいえ、首都の通りに人がいないというのはおかしなことだ。
今度は人口を調べた。日本は6000万人。中国は7億人。確かに減っているが、人が町にいないとは。それなら、老人ばかりになっているのか。
確かに老人は多いが、65才以上は30%だ。驚くほどではない。
さらに驚くことは、この現象は、東京だけでなく、ニューヨークでも、パリでも、北京でも起こっているようだ。さらに、世界中のどの国でも、どの町でも。
私は、この傾向を好ましいものとは思ったが、原因を特定しなければ、上司は納得しないことはわかっていたので、さらに調査を進めることにした。
教科書でわかることなら、おまえたちをあちこちに派遣する必要はないというのが上司の口癖だ。
10日かけて徹底的に調べた。私は、忙しいときには寝る必要がないので、1日24時間をびっしり調査に費やした。
その結果、こういうことになった原因は130年ほど前までに遡(さかのぼ)ることが分かった。
当時、ネットが民間にも使われるようになって、それが世界中に広がった。情報が一瞬で伝わり、SNSで人が結びつくようになった。
しかし、一部の若い人が、「国が争うようになったのはネットが原因だ。また、上っ面の結びつきで何が生まれるのか」と思うようになったそうだ。
そのきっかけは、実際には使われなかったが、核兵器の実験の失敗でロシアは壊滅したことだ。ああ、確かにロシアには大きな町がなくなっている。
また、それぞれの国の社会では、人と人の結びつきが、社会を二分するほどの争いを生み、その結果、人は、社会から遠のいたというのだ。
ネットの恩恵で、仕事などの経済活動は自宅でできるし、買い物などの日常生活もネットで済ますことができる。
しかも、子供たちは学校に行かず、自宅で勉強をする。ただ、年に数回スクーリングで登校するだけになった。
レポートをまとめているとき、ある事件が起きた。それは、まさに私に与えられたミッションに関わることなので、タイムリーであった(その経過を見聞きするのには3年かかりそうなので、上司に滞在の延長許可を申請した)。
事件は、小学生の男女3,40人が、スクーリングが終わったとき校庭で遊んでいるのを通りがかった警察官が、「これは違法だからすぐに帰宅するように」と命じたことが端緒だった。
子供たちは警察官に詰めより、事件は市、県、政府と広がった。「法律は守らなければ」と言っていた親も納得いかなくなった。
「おじいちゃんやおばあちゃんが話していたが、みんなで遊べば楽しいそうだ。ぼくらやぼくらの親はしたことがないけど」と主張した。
総理大臣は、「子供の心身は成長しているときです。このときに、悪意ある大人や子供に成長を阻害されたら、子供の人生は台無しになってしまいます。
それは過去を見たらわかります。わざわざ敵を作りあげて、今にも戦争が起きるかのように吹聴する悪意のある大人になってしまいます。
この世は善にあふれていると思う大人になるのは、争いや喧嘩をしないことなのです。それで、子供同士が一緒に遊ぶことは法律で禁止されているのです」
総理大臣は涙を流しながら国民に説明した。それはもっともだという親もいたが、そのことが世界中に広がると、結果がどうであれ、楽しいことはさせようじゃないかという意見が多くなった。
これからどうなるのか最後まで見届けたいが、延長期間の3年が迫った。機会があればまた来たいが、それは上司の判断だ。私は後ろ髪を引かれる思いで地球を離れた。

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