春の冒険(2)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(117)

「春の冒険」(2)
その声を聞いて、シンクの下、マットの隙間、ごみ箱の裏から顔を出したものがいます。そして、声がするほうに、ぴょんぴょん、ころころ集まってきました。
「きゃ、ネゴがいる!」誰かが叫びました。
「大丈夫よ。ぐっすり寝ているようだから。でも、静かに」次女が注意しました。
ところが3人しか来ません。「もう一人いないわ」
「四女!」長女が叫びました。みんなで、手分けしてころころ探しましたが、見つかりませんでした。
「奥さんに見つかってしまったのね。今ごろは炊飯器かボウルの中にいるはずよ」
「ボウルなら助けられないの」「テーブルの上だし。それに水につかっていたら、もう手遅れだわ」
「かわいそうなおねえさん。一番仲がよかったのに」五女が泣きだしました。他の姉妹も胸が締めつけられるような思いになりました。
ようやく、次女が、「仕方がないわ。これからはお姉さんを中心にみんなでがんばっていきましょう」と言いました。
「わたしは頼りないわ。おまえが引っぱってくれたらうまくいく」
「いいえ、お姉さんがいるから、何でもできるのよ」
「それじゃ、みんなで話しあって決めましょ」
そのとき、床で寝ていたネコが起きて、えんどう豆の姉妹のほうにのそりとやってきました。
五女は、「怖い~!」と叫びました。「大丈夫。わたしたちは、生の豆だから、食べないよ」次女は五女を落ちつかせました。
なるほど、ネコはにおいを嗅いで、またさっきの場所に戻り、体を丸めて寝てしまいました。
今度は、スリッパの音がします。「奥さんだ!わたしたちのことをおぼえているかもしれない。みんな隠れましょ」次女が叫びました。
みんなでスリッパの動きを見ながら、テーブルの脚をぐるりと回りました。
しかし、体をかがめることはありませんでしたから、とっくに行方不明の豆のことは忘れているのでしょう。しばらく何かしていましたが、また台所を出て行きました。
しばらくすると、「これからどうするの?」今まで黙っていた三女が聞きました。
「それをみんなで考えているじゃない。おまえはどうしたいの?」長女が答えました。
「こうなったからには、庭に出て、土の上でのんびりしていたら、家族が増えて楽しい人生を送れるはずだわ」と言いました。
「わたしは反対よ。せっかくのチャンスを生かさなくっちゃ」次女がすぐに自分の考えを言いました。
「手も足もないのに、どこへ行くの。何をするの」と三女は不満そうに言いました。
長女は、どう言えばいいのかわからないのでおろおろするばかりでした。
すると、次女が、「黙っておこうと思ったけど、話しておきたいことがあります」と口を開きました。みんなは、その落ちついた様子に緊張しました。
「実はわたしたちは作者が考えるようにしか動けないの。何かしようとしても、作者が気に入らないと、それができないわけよ」
「それはどういうこと?」三女がさっそく自分を取りもどしたようです。
「つまり、わたしたちは作者が考えた存在なの。つまり、作者の子供ってわけ。子供は親の言うとおりしかできないように」
「でも、どうしてわたしたちのような豆がしゃべるのよ~?ほっといてくれてたらいいのに」
「作者というものは、ネコにしゃべらせり、豚に空を飛ばしたりするからね」長女は三女を慰めました。
「でも、うまく動かせてくれるの?」三女はまだ言いたいことがあります。
「この作者は、何でもシリーズにしたがるそうよ。自分たちがモデルなのに、どうしてミッキーマウスが人気者で、自分たちは毛嫌いされるのかと怒っているネズミの冒険。台風の後で捨てられるビニール傘の冒険。時代遅れのピノキオロボットの冒険などどんどん書いているそうよ。
しかし、一つ終われば次としないで、同時に書くから、読まされる方は大変よ。前の内容がわからなくなるからね。ピノキオロボットなんか海の上にいるからどんどん錆びてきているそうよ」
「いろいろしたいのは焦っている証拠よ。それで、わたしたちも、シリーズにしたいと考えているかもしれない。でも、豆ごときものに何をさせるの」次女は、事情はわかったが、納得できないようです。
「作者にとっても、わたしたちにとってもそうチャンスはないのよ。それに賭けてみるのも人生よ」
「作者がわたしたちをどう転がすか見ものね」
「豆だけにね」

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