冬山物語

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(115)
「冬山物語」
昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。二人は、日頃畑や田んぼを作っていましたが、野良仕事が終わる頃になると、おじいさんは、山で熊や猪、鹿,兎を取りました。それを町で売って、着物や薬などを買うのです。
大雪が降り、山がすっかり白くなった日、おじいさんは、「今日は大きなものを取れるかもしれんぞ」と、矢に毒を塗って山に向かいました。そして、しばらく登って行くと、木の陰から何かこちらを見ている者に気づきました。
おじいさんは腰が曲がっていますが、目はひじょうによく、それが白いウサギだとすぐにわかりました。
「兎がいるわい。せっかくじゃから、行きがけの駄賃とするか。兎汁はぬくもるから、ばあさんも喜ぶぞ」おじいさんは、弓に毒を塗った矢をつがえながら、そっと近づきました。
そして、弓を引こうとしたとき、「おじいさん」という声が聞こえました。
おじいさんは、「何じゃ?」とふりかえりました。しかし誰もいません。雪景色が広がっているだけです。しかし、念のために、「誰かいるのか」と叫びました。
「ここです。ここです」とまた声が聞こえました。声がする方を見ると、その兎が赤い目でおじいさんを見ているようです。
夕べの酒のせいかと思いましたが、「おまえがしゃべったのか」と、愚かなことだと思いながら、声をかけました。
兎は、「はい、わたしです。どうしてもおじいさんに聞きたいことがあります」と答えました。
おじいさんは、思わず「なんじゃ?言ってみろ」と聞きました。
「わたしの友だちの姿が見えないのです。喧嘩をした覚えもないのにどうしたのだろうと気にはなっていたのですが、親兄弟も心配していることがわかって探しているのです。
ちょうど山の生き物を捕まえているおじいさんに出会ったので、聞いてみようと思いました。
友だちのことを教えていただければ、おじいさんにつかまってもかまいません。茶色に白い水玉があります。そんな兎を知りませんか」
「兎はときどきもってかえるが、そんなめずらしい兎ならおぼえているはずじゃが知らないな」
「わかりました。それでは約束ですから、わたしをつかまえてくだってかまいません」
「さすがにわしでもそれはできない、とりあえず聞くが、おまえたちはいつもどこで遊んでいるのじゃ?」
「いつもは鬼岩の近くです」
「あそこにはわしが落とし穴を掘っている。そこを見てみようか。おまえもついてこい」
二人は頂(いただ)き近くにある鬼の顔をした大きな岩に向かいました。
おじいさんは落とし穴をのぞきました。そして、「おる、おる!」と叫びました。
おじいさんに声をかけた兎も穴をのぞきこみました。そして、「よかった。おじいさんが助けてくれるから、もう少しがんばれ」と励ましました。
おじいさんは、その声につられるように、穴に入り、茶色の兎を助けだしました。
何度も礼を言うので、「これは、熊や猪、鹿を捕まえるために掘った穴でな、おまえたちのような小さいものを捕まえるためではない。雪で枝が穴に落ちたようじゃ。これからは、ここを通るのじゃないぞ」と言いわけをしました。
「おじいさん、ほんとにありがとうざいました。それでは、約束どおりわたしを自由にしてください」最初の兎が言いました。
「わしは、おまえたちには悪人じゃろが、生きるためにそうしているだけであって、根っからの悪人じゃない。それに、おまえの友だち思いを知ったからには、そんなことができるわけがない。おまえたちのことは覚えているから、このまま二人で帰れ。そうして、幸せに暮らせ」と言いました。
数日後、知り合いの熊と出会ったとき、「おまえたち、喜べ。いつもおれたちを狙っているじじいが崖から落ちたと見えて、崖の下で倒れている。これで、安心して暮らせるぞ」と言いました。
二人は顔を見合わせました。それから、場所を聞いて駆けつけました。そして、急いで崖を飛びおりて、「おじいさん、大丈夫ですか」と声をかけました。
意識を失いかけていたおじいさんは、その声で我に返って、「ああ、おまえたちか。年は取りたくないものじゃ。よろめいて崖から落ちてしまった。脚を痛めたようで、立つことができない」
「どうしたらいいですか」
「ここで死ぬしかないじゃろ。夕べも、熊に狙われそうになったからな。弓で追いはらったけど、もう体が持たない。せめて、ばあさんにわしがどこで死んだか教えてくれ。心配しているじゃろからな」
「おじいさん、わたしたちが助けますから、がんばってください」
茶色の兎はおじいさんに栄養のある木の実を食べさせ、最初の兎は知り合いの熊や鹿を集め、事情を話しました。
それを聞いた仲間たちは、「悪の報いだ」だと言うものがほとんどでした。
最初の兎は、「きみらの気持はよくわかる。しかし、仲間を一度助けてくれたのだから、一度だけ力を貸してくれないか」と何度も頼みました。
それで、「きみの気持はよくわかった。それでは、一度だけ助けよう。そのかわり、次は知らないぞ」とようやく聞き入れてくれました。
みんなでおじいさんがいる崖の下に行きました。そして、みんなで背中に乗せたり、ひっぱったり、押したりしながら、ようやくおじいさんを家まで届けました。
おじいさんは、半年ほどして元通りの体に戻りました。そして、弓矢を竈(かまど)で燃やしてしましました。
そして、冬になると、畑で採れた野菜を山にもっていくようになりましたとさ。

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