チュー吉の挑戦

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~

「ほんとはヘンな童話100選」の(23)
「チュー吉たちの挑戦」(9)
「おい、これを見ろよ」どこからか帰ってきたチュー助が、大きな声で言いました。
思い思いの格好で寝ていたチュー吉たちが顔を向けると、チュー助は、紙のようなものを口にくわえていました。
チュー助は勉強家です。故郷にいるときは、あちこちの家の書斎に入りこんで、手当たり次第に本を読んでいました。
同時に何十冊の本を読んでいましたから、本のページには、自分だけわかる折り目をつけていました。
こんなに頭がよくて、しかも勤勉なネズミは、今までいませんでした。
しかし、自分たちを認めさせるための冒険の間は、そういうわけにはいきませんから、チュー吉には辛いことでしょう。
ただ、どこに行っても、新聞は欠かさず読んでいました。どうやら新聞の切りぬきのようです。
みんなチュー助のまわりに集まりました。「これだ!」チュー助は、前足でさしました。そこには、体が赤いネズミの写真が載っていました。
みんなじっと見ていました。「これはどうしたんだ?ぼくのママみたいに、お酒を飲んでいるのか」チュー吉が言いました。
「ちがうよ。こういう種類なんだ。首の後ろを見ろよ」チュー助が、また言いました。
よく見ると、そこには黒い毛が10本近く生えていました。
「なんだい、こりゃあ」、「気持ち悪りぃ」他のものも、口々に言いました。
チュー助は、新聞を読んでやりました。毛が生える研究が成功したという内容でした。
そして、「人間は、特にオスは、いや男といったかな、頭の毛が抜けることがある。
それが恥ずかしくて、さも毛があるように、カツラというものをかぶるものがいるそうだ。
それより、毛が抜ける禿頭病(とくとうびょう)や脱毛症の人を治療するために、ほんとに毛が生える研究をしているそうだ」チュー助は記事の内容を解説しました。
「そういえば、どこかの家に寝心地がよさそうなものがあったから、そこで一休みしていたら、いきなり頭に被られて驚いたことがある。あの時は、その人間も、びっくりしてひっくりかえったが」チュー造が昔のことを思いだしました。
「人間は、こんなむごたらしいことをするのか。でも、笑っちゃうな、この写真は」チュー太郎が口を挟みました。
「とにかく、髪の毛が生える研究にまで、おれたちが使われているのだ」一家言(いっかげん)をもつチュー作が言いました。
それから、みんなのおしゃべりがはじまりました。
「重い病気を治す薬の研究のことは聞いたことがある」
「前から疑問に思っていたんだけど、研究にしたい病気にかかっているネズミはどうやって探すのだろうか?」
「ばかだな、おまえは。まずネズミを、その病気にならすのだ。ガンでも、心臓病でも」、
「へぇ」
「それから、その薬を試すのさ」
「今は、iPS細胞の研究で多くの仲間が犠牲になっているよ」チュー助は暗い顔で言いました。
「おれたちのお陰で、人間は、どんな病気でも治り、禿で恥ずかしい思いをすることもなく、メガネをかけることなく地デジを楽しみ、どんな固いものでも自分の歯で食べることができる。そして、それが120才まで続くことになる。
つまり、人間が健康になり、長生きするのと、おれたちが病気にさせられ、早死にするのは逆比例の関係があるのだ」チュー作は、本人らしいことを言いました。
「でも、ぼくたちも、人間を助けるために挑戦している」
「まず研究所に閉じこめられている仲間を助けるのが筋じゃないか」
「その連中は、ぼくらのことを知ると、裏切り者と思わないだろうか?」
今日は、食べものもあり、予定もないので、みんなゆっくり議論でもするつもりでした。
そのとき、チュー太郎の弟のチュー次郎があわてて帰ってきました。
「たいへんだ。近所の家から変なにおいがするので、部屋を覗いてみると、人間が倒れている!」
「議論は後にして、助けにいこう!チュー吉が叫びました。

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