チュー吉たちの冒険(10)

      2016/11/05

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~

「ほんとはヘンな童話100選」の(25)
「チュー吉たちの冒険」(10)
みんな、チュー次郎の後を追いかけました。空き家を出て、2,3軒越してから、裏通りを渡りました。そして、家と家の間を何軒か行くと、どこかの裏庭に着きました。
チュー次郎は、裏庭に面している部屋の縁側に上がり、「ほらっ、あそこ!」と叫びました。
庭に面して大きなガラスがあり、カーテンで中が見えないようになっていましたが、下の端が何に引っかかっていて、少し奥が見えるようです。
そこを覗くと、確かに誰かが倒れています。どうやら若い男のようです。
チュー助は、「練炭のにおいがする。早くしないと死んでしまう!」と大きな声で言いました。
チュー助は、サッシがテープで目張りされているのに気がついたので、ひょっとしてと思ったのです。
「練炭?」誰かが聞きました。
「料理をするときなどに使うものだ。換気をしないと、一酸化中毒で死んでしまうぞ!」
チュー吉は庭を見わたしました。「よし、パチンコで窓を割ろう。誰か、よくしなる枝を探せ」と指示を出しました。
そして、「他のものは、ぼくらの頭ぐらいの石を拾ってこい」と言いながら、ガラス窓の前にある椿の木に上りました。
すぐにチュー作が、長い枝をくわえてきました。まだ青く、よくしなりそうです。
チュー吉は、椿の木から下りると、その前にある土を調べました。「その枝をここにさして」と言いました。幸い、モグラの穴のようなものがありました。
「これで準備はできたぞ。チュー作は、弾を込めろ。他のものは、木に上って、ぼくがやるようにしてくれ」と言いながら、木に上ると、後ろ足を枝にかけ、体を揺らしました。まるで、サーカスのブランコ乗りのようでした。
みんな、どうするのかわかったので、すぐに木に上りました。
そして、勢いがつくと、前足で穴にさしこんだ枝をつかみました。体が元に戻るとき、その枝がしなります。
そのときに、チュー作が、枝の又に石を置くのです。思いっきり体が戻ったとき、前足を離します。すると、石はビューンと飛んでいきました。
ビシッ、ドンという音がしました。石はガラスに当たったのですが、少しひびが入っただけで割れていません。
ドンという音は、チュー次郎の兄であるチュー太郎が、前足ではなく、後ろ足を離したものですから、石と一緒に飛んでいき、窓ガラスに当たったのです。
みんな大笑いましたが、「何やっているんだ!」弟のチュー次郎が兄を叱りました。
そんなことは初めてでした。よほど恥ずかしかったのでしょう。
チュー太郎は、「ごめん、ごめん」とあやまりながら、また木に登りました。
「もう一度やるぞ」チュー吉は言いました。
ビューン、ビシッ。今度はもっと大きくひびわれましたが、中に入れそうにはありません。
「もう一度!」
今度は、ガシャンという音がしました。ひびわれたところにうまく当たったので、大きく割れました。
みんな急いで部屋に入りました。しかし、すぐ体が痺れるようになりました。
チュー助は、「一旦外に出ろ」と叫びました。
しばらくしてから、部屋の中を覗くと、若い男は体を動かしていました。まだ生きています。
「家が古いので、目張りしても、毒が抜けていたのかもしれないな」チュー助が解説しました。「しかし、後遺症が残るはずだから、救急車を呼ぶ!」
「わかった」チュー吉は、そう言うと、中に入りました。
七輪にある練炭はまだ燃えています。チュー吉は、机の上の花瓶を、みんなと力を合わせて七輪に向かって押しました。練炭は、ジュッと消えました。
チュー助は、机の上にあったケータイで、119をかけました。これは何回か経験があります。
「どうされましたか?」と言う声を聞いてから、一度切って、もう一度かけるのです。
それから、若い男の顔を噛んだりして、早く気がつくようにしました。
やがて救急車の音がしました。「よし、引きあげよう」チュー吉は言いました。
「あの男は料理をしていたのか」チュー造が聞きました。
「ばか。あそこは台所じゃないだろう!」チュー作が言いました。
「自殺だよ。練炭で自殺をするものが増えているんだ。日本では、年間3万人位以上が自ら命を落としているそうだ」
「どうして自分で死にたくなるのだろう。おれにわからんな」またチュー造が言いました。
「そうだな。寿命はぼくらの何十倍もあると聞いているけど、生きるのに飽きるのか。チュー助」チュー太郎が聞きました。
「いや、そんなことはないと思う。不老不死といって、いつまでも生きていたいと思うのが人間だ。中には、思うようにならないと言って、こんなことをするのだろう」
「じゃ、どうして助ける意味があるのか。本人は死にたがっているのに」
「むずかしい質問だが、命を道具と考えたらいい。今はいらなくても、またいるときがある。それで、本人が捨てた道具を拾っておいてやるのだ」
「その道具のために、ぼくらの仲間は実験室で一生を終えるのか」
「みんな、今は休め」チュー吉も、若い男の命が助かることを祈りながら、眠りにつきました。

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