シーラじいさん見聞録
カモメは驚いて飛びあがったが、みんなが落ちつくのを見て、また下りてきた。そして、テーブルに止まった。
「ごめん、ごめん。みんなシーラじいさんの手紙を待っていたものだから驚かせたね」アントニスが謝った。カモメはうなずいてアントニスに手紙を渡した。
アントニスはすぐに手紙を開いた。またみんな寄ってきてアントニスのまわりを囲んだ。「これは!」誰かが唸るようにいった。
そこにはオリオンたちがいる場所にクラーケンらしきものが来たということが書いてあったのだ。
「クラーケンか」ジムが言った。
「オリオンたちがいることを知っているのか?」
「もしそうなら大変なことになる」みんな口々に言った。
それを聞いたイリアスが、「かわいそうなオリオン!」と泣きそうな声で叫んだ。
「ぼくらは何かできないのか」ジムが言った。
「所長に頼もうじゃないか」ジョンが提案した。
「そうしよう」マイクはイギリスにいる所長に連絡をした。
所長が出た。「所長!」マイクは叫んだ。そして、シーラじいさんの手紙について話しはじめた。
ようやく話は終わり、マイクは、みんなに「所長はすぐに海軍や陸軍に話してくれるそうだ」と安心させた。
「今までのことを考えたら、すぐに動いてくれるとは思えないなあ」ジムはあきらめ顔で言った。
「所長は、『ぼくはきみら以上にオリオンを心配しているから懸命に説得する』と言っていた。すぐに海軍や陸軍に掛け合ってくれるそうだ」
「それはよかった。でも、ぼくらでも何かできないのかなあ」ジムがもう一度言った。
みんな同じ気持ちを持っていた。しかし、すぐには思いつかないので、みんな考えこんでしまった。
カモメは、アントニスたちの様子を伝えるために急いで帰っていった。
まずカモメが異常を見つけたのだった。空高く海の様子を見ていたカモメが1頭の若いシャチが慌てて海面に上がってきたのに気づいた。
もちろん仲間のシャチで、深く潜って苦しいのだろうと思っていると、どうも様子がおかしい。
しかも、真っ青な海面が濁っているように見える。「あれはなんだろう?」と仲間のカモメに言った。仲間はしばらく見ていたが、「血だ!」と叫んだ。
「まさか!行ってみよう」と2羽は急いで下りていった。
カモメはすぐそばまで行った。やはり若いシャチからは血が出ている。
「どうしたんだ!」カモメは叫んだが、その若いシャチは慌てて逃げようとしている。
そのとき、突然海面が膨らみ、黒い塊が3つ4つあらわれた。
ものすごく大きい生き物だ。「クジラか」と思うまもなく、それらは若いシャチを取り囲んだ。
若いシャチは潜ろうとしたが、すぐ空に飛びあがった。それは自分から飛びあがったのではなく、下から激しく突きあげられたようだ。
若いシャチは空に腹を見せて飛びあがったかと思うと、巨大な波とともに海面に叩きつけられた。
すると、クジラぐらい大きなものが若いシャチを激しく攻撃した。若いシャチはなすすべもなくされるがままだった。
「どうしよう!」カモメが叫んだ。「すぐにリゲルとオリオンに知らせよう」2羽のカモメは二人を探すために飛びたった。
しかし、リゲルとオリオンはどこにもいない。「今訓練をしているのだろう。もう少し待とう」
しばらくすると、ようやく二人は浮かびあがってきた。カモメは、「おーい」と叫びながら下りていった。
「どうしましたか?」オリオンはカモメが慌てているので聞いた。
2羽のカモメは説明した。「クジラぐらいの大きさだった。でも、クジラではない。そいつらが3,4頭で若いシャチを襲った」
「わかりました。すぐ行きます」
二人は急いだ。「あそこだ」カモメはその場所に下りた。
すでに他の若いシャチ4頭はもどってきていた。二人を見て、「何かあったのですか?」と聞いた。
リゲルが説明した。「ほんとですか?」、「血が浮いているので、『どうしたのだろう』と話しあっていたところです」、「気がつかなかったのか?」、「みんな離れて潜っていましたので気がつきませんでした」
「今の話を聞くとクラーケンが来たのですか?」
「そうかもしれない」リゲルが答えた。
「話には聞いていましたが、まさかここまで来ているとは!」、「どうしたらいいのですか?」
「あいつのことが心配だからおれたちが見てくる。でも、おまえたちは潜るな。もしクラーケンが来たらすぐ逃げろ」
「それじゃ、オリオン。行ってくれるか」、「もちろん」二人は潜っていった。しかし、暗くなってきたので、さらに神経を鋭敏にして潜っていったが、何かの気配を感じることはなかった。