シーラじいさん見聞録

   

二人は上がることにした。「何もいないな」、「クラーケンにまちがいないと思うが、あの若い者が偶然出会って襲われたのか」、「そうかもしれない」
「しかし、このあたりに来ているのか」
そのとき、4頭の若い者が集まってきた。そして、「どうでしたか?」と聞いた。
リゲルは、「特に目立ったことはなかった」と言ってから、「仲間がクラーケンに襲われたのは偶然のことだと思う。おまえたちも辛いと思うが、オリオンも来てくれたから、もう心配はない。みんなで乗り切ろう」と言葉をかけた。
「それに、まだどんな姿も見せていないから,帰ってくるかもしれないよ。もし何かあったら浮いてくるものだから」オリオンも言った。
「わかりました。一刻も早く海底の穴を見つけなければならないときにご心配かけました」
「やつはどこかにいるのでしょう。静かになれば帰ってくるでしょう。ぼくらは二人のお役に立つために何でもしますから、ぜひ何か用事を言ってください」
「ありがとう。おれたちは海底を探す。カモメが下りてきたら、話を聞いてくれ。そして、クラーケンが来たらすぐに逃げろ。おまえたちに何かあったら、今後の計画が狂う」
「わかりました。そうします」
「それじゃ頼むぞ」
「もう行くのですか」
「そうだ。海底近くは静かだったから今がチャンスだ」二人は潜っていった。

2日後所長から連絡が入った。それによると、イギリス海軍とアメリア海軍はクラーケンらしきものをインド洋で何回も確認しているとのことだった。しかも、相当数いるとのことだった。しかし、そこに近づくことは危険なので詳しいことは分からない。それらは極秘情報だが、所長に特別に言ったようだ。
「単にそこを通っただけではないかもしれないな」マイクが言った。「近辺に住みついているのなら厄介だ」ジムが心配そうに答えた。
「とにかくシーラじいさんに伝える」アントニスはすぐに手紙を書いた。
2時間後シーラじいさんは手紙を受け取った。「ベラ、どうやらクラーケンもインド洋にいるようだな」と言った。
ベラは、「あんなに広いインド洋なのに、どうして同じ場所にいるのでしょうか?」と聞いた。
「わしにもわからんが、あの一帯だけが特別な場所なのかもしれん。それをクラーケンも気づいたのじゃろ」
「確かにニンゲンがいる穴だけでなく、ありこちに同じような穴があるような気がするとオリオンは言っていましたね」、「クラーケンもとりあえず様子を伺う場所を探していたかもしれん」、「リゲルたちに何もなければいいですが」
「とにかくカモメにまた頼まなければならないな」
ベラは、「わかりました」と答えてカモメを探した。

「とにかく行けるところまで行こう」二人はそう考えて潜った。ただ、何かいる気配を感じたらすぐに戻ることも決めた。
大勢のクラーケンに追いかけられたら、体力を使い果たしているのであれば助かる見込みがないからだ。
二人は順調に潜っていった。オリオンは潜る力が戻ってきているのを感じた。
リゲルもオリオンに負けないように潜った。
もう10分もすれば海底に近づくように思えた。そのとき、漆黒の海の中に何かが動いたようだった。リゲルも動きを止めた。
それから、二人は同時にゆっくり向きを変えた。二人は急いで海面に戻ってきた。「かなりいたな」、「それも、ものすごく大きい影だった」、「やはりクラーケンか」、「多分そうだろう」
そんとき、家紋が2羽降りてきた。「海底に行ってきたのか?」と聞いた。
「そうです。何かありましたか?」オリオンが聞いた。
「死体が浮いている。若いシャチかもわからないので、若いやつが向かっている。おまえたちも行ってくれ」と言った。
「わかりました。すぐに行きます。場所を教えてください」
カモメは飛びはじめた。二人はついていった。
しばらく行くと、若い者が集まっている。叫び声が聞こえる。泣いているようだ。
オリオンとリゲルが近づくと、大きなものが浮いている。リゲルが、あっと叫んだ。まちがいなく大きな生き物だ。体はずたずたにされていて、肉の塊だけのようだった。
二人を見ると、若い者が、「マヨットが!」と叫んだ。
「マヨット?」リゲルが思わず叫んだ。
「あ!すみません。勝手に名前をつけて」若いシャチの一人が気がついて言った。
「ぼくらも、リゲルとかオリオンという名前にあこがれて、勝手に名前をつけていたんです。こいつがあわてて言ってしまってすみません」別の若いシャチが謝った。
「マヨットはインド洋にある島の名前だ。いい名前だ。シーラじいさんも喜んでくれるぞ。それで、これはマヨットか」リゲルは無残な姿のものを見た。
「マヨットです。まちがいありません。みんなで確認しましたから」
「逃げたと思っていたが」オリオンが悔しそうに言った。
「はい。ぼくらも必ず帰ってくると思っていましたが」と小さな声で答えた。
4頭のシャチは相当ショックを受けていた。みんな固まって動こうとしない。
リゲルとオリオンはその場を離れた。「オリオン、あいつらをどうしようか」とリゲルが聞いた。
「初めての経験なんだろう?少し時間を置いた方がいいかもいれない」オリオンが答えた。
「でも、今は一刻を争うときだ。あいつらを構っておれないぜ」
「それじゃ。みんなに聞こうか」
翌日、二人は4頭の若いシャチのところに行った。「マヨットはかわいそうなことをした。おれももっと気をつけるべきだったと反省している」リゲルが謝った。
「いや。ぼくらが悪いんです。クラーケンがいると聞いていたのに気をつけなかったのですから」若いシャチが答えた。
「リゲルと話していたんだが、しばらくここを離れてはどうか」オリオンが聞いた。
「どうしてですか!」4頭とも同時に大きな声で言った。
「きみらにはいてもらわなくてはならないのだが、二人で海底の穴を見つけるまでクラーケンがいない場所にいたほうが気が休まるよ」
「そんなことはありません。今も潜るときのことを話しあっていたんです。
二人のように、お互いが一つになってクラーケンを見つけようって」
「そうすれば、相手の裏をかくことができます」、「ぼくらも捜索作戦に使ってください!」若いシャチは必死で訴えた。

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