シーラじいさん見聞録

   

テレビや新聞は通常の番組をすべて中止して、24時間休むことなく、「人類は絶滅する。アメリアとその同盟国は反撃するな」と叫ぶつづけていた。多分世界中のテレビ局もそうしているだろう。敵味方と別れた、あるいは、何の関係もない人々もそう思っているだろう。アメリアの大統領の判断一つで人類は絶滅するところまできているのだ。
テレビや新聞は、放射能の危険があるためにアメリアの状況を取材できなかったので、軍事や政治の専門家の議論が続いていた。逆に、それが人々の不安を高めていた。
ようやく、ダニエルが予想したとおり、この核攻撃はHANEという高高度核爆発だということが発表された。
それは、人命よりも、文明を破壊する兵器だとわかったので、世界のマスコミは一斉にアメリアに向かった。
その結果、アメリアの北半分、つまり、西はカリニア州から東はバーニァ州までの交通や通信が途絶えていることが分かったので、世界中がショックを受けた。
ニュークーカはアメリア国内だけでなく、世界の政治と経済の中心であるので、世界はその影響を受けざるをえないからだ。
その地域の人々は、隣人とアメリアは核攻撃されたのでないかと話しあった。もしそうなら、放射能から身を守るために家に隠れたが、8月23日はまだ暑くて、おそるおそる窓を少し開けて暑さを防いだ。
食料や水がなくなってきたので、近隣と分けあうこともしたが、それも時間の問題だった。それで、数人ごとに手分けして、買い物に行くことにしたが、それも困難を極めた、
都心だけでなく、郊外でも、建物の破壊は一切なかったが、まるでゴーストタウンになっていた。
通りは、どこかでパトカーのサイレンが聞こえたが、ガスマスクをした人間が猛スピードで運転する車の姿しかなかった。
ただ、信号も消えていたので、交差点は細心の注意を払った。もしもぶつかったりしたら、外に出なければならなかったし、今度移動することができなくなってしまうからだ。
そして、スーパーマーケットなども無人であることがわかったので、人々は、南部は被害がまぬがれているという情報を得て、親戚や知りあいがいるいないにもかかわらず、自宅を捨てて南部を目指しはじめた。
途中も、もちろん信号が消えているので、何百キロという渋滞に耐えなければならなかった。
だから、世界から集まった記者も、反対方向を通って北部をめざすことができなかった。やがて、北部はテロなどを警戒して立ち入り禁止になったので、北部から逃れてきた人の話を聞くしかなかった。
それによると、「午後11時ごろ、空気が激しく震えた。何が起きたのか思ったとたん、部屋のライトやテレビが消えて、真っ暗になった。外を見ても同じことになっていた。まるで深海のようだった。
すぐに隣の家に行ったが、そこも同じことで、電力会社に電話をしたがまったくつながらなかった。
すぐ警察に行こうとしたが、信号が消えているので、明るくなるまで待つことにした。午前4時に警察に行ったが、状況がわからないので、何もできないと言うばかりだった。
家族で、南に向かっている間に、ようやくラジオ放送が聞こえるようになって状況がわかった」と疲れ切って話す人もいた。
「遠くの親戚や外国の知りあいに電話したがまったくつながらなかった。じっとしていればいいのかと思ったが、食べるものがなくなったので、動かざるをえなかった」と途方に暮れている人や、「病院は大変だった。自家発電をしたがそれもうまく機能しなかった。多くの人の命がうばわれた」と涙を流す人もいた。
大統領は一度姿をあらわしたが、その後は消息が分からなかった。
4日目、アルバ大統領がテレビに出てきた。
「アメリア国民に言います。しばらく辛い生活が続くと思いますが、ここを開拓して、そして、独立を宣言した先人たちのスピリットを思い起こせば、必ずや今まで以上のアメリアを作ることができると思います」と話しはじめた。そして、演説は、20分以上続いた。
それをテレビで見ていたアントニスは、「アメリアはひどいことになっている。ダニエル、アメリアは復活できるのだろうか?」
「そうとう時間がかかるだろう。でも、国を破壊して、すぐに攻め入るということがなかったので、同盟国が協力すれば、4,5年でインフラは落ちつくかもしれない」
「しかし、世界の経済を引っぱっていたアメリアがこんなことになれば、チャイアだって、経済的には落ちこむことはわかっていたのじゃないか」
「そうだ。でも、自分が犠牲を払ってでも、どこかで相手の手足をもぎとれば、世界は、自分を頼らざるを得なくなるだろうと考えたのかもしれない」
「これで、世界はどうするのだろうか」
「アルバ大統領は、報復という言葉を口にしなかった。もちろんそうすると言っても、すぐにはできないだろうが。
多分、そんなことはしていないというチャイアにぐうの音も出ない証拠を集めているのだろう。そうすれば、人類が絶滅するかもしれないようなことをしなくても、相手を抹殺できるのだから」
「でも、人工衛星やミサイルは完全に把握されているのじゃないか」
「今までそうだ。科学、特に、軍備は日進月歩で進んでいる。しかも、秘密で」
「きみの家族とはまだ連絡がついていないのか」
「そうだけど、HANEだと言うこともわかったし、カリニア州の南の方だから、何も心配いらないよ。もうすぐ連絡がくるはずだ。それより、オリオンのことが心配だ」
「当分、訓練はできないだろうな」
それまで、ずっとダニエルとアントニスの話を聞いていたイリアスが、「当分無理なら、マイクとジョンに、オリオンを海に戻すように頼んだらいいよ」と言った。
「そうだな。もう一度会ってみよう」アントニスが答えた。

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