シーラじいさん見聞録

   

マイクとジョンは換気孔に置いた手紙はすでになくなっていると言った。「風に吹きとばされたのではないかと探したがなかった」
「大丈夫です。すでに仲間に伝わっているはずです」小鳥が顔を出すのを見たからまちがいないだろう。小鳥のことはマイクとジョンに説明したいが、もし二人が意識すれば、小鳥が今までのように動けないかもしれないので黙っていることにした。
また、マイクとジョンも深く詮索しないようにしてくれていたのでありがたかった。
「すごいなあ。みんながきみを助けようとする熱意は」
オリオンは黙ってうなずき、「クジラは見つかりましたか?」と聞いた。
「ニンゲンを助けようとした仲間だな。そう言えば、その後のニュースでも言っていないみたいだ」
「心配だろう」
「申しわけないが、調べてほしい」
「了解した。ベンにも連絡してみよう」
二人は出ていったが、オリオンは、みんなで「海の中の海」に帰らなければならない。特にミラは、ミラのパパのようにボスになる資格があるのだからと思った。
数時間後二人が来た。研究所はわからず、ベンに調べてもらったが、まったくわからないそうだ。二人は申しわけなさそうに言った。
それなら、もうシーラじいさんの元に戻ったかもしれない。ミラは不死身だ。オリオンは自分にそう言い聞かせた。

リゲルたちが海面だけでなく、かなり深い場所までミラを探しつづけた。
リゲルたちを怖がって逃げるものは仕方がないとしても、聞けるものには大きなクジラを見たことはないかと聞きつづけた。
確かにここを通ったという情報もあったが、それはかなり前のことなので、あまり参考にはならなかった。
一通りは探した。とりあえずシーラじいさんに今後のことを相談するために、みんなが揃えば一度帰ろうと思ったときだった。
カモメ2羽があわてた様子で下りてきた。「何かありましたか?」リゲルもあわてて聞いた。
1羽は中心となるカモメで、もう1羽は、ここで仲間になったが、信頼できるカモメだった。そのカモメが相当遠くまで行っていたはずだ。
「ミラを見たクジラがいたそうだ」
「どこにいましたか!」
「ここから4,5日かかる場所だそうだ。おまえから説明してみろ」
若いカモメが前に出た。「とにかく、教えてもらったように言えば北の方角ですかね、そちらに向かってどんどん進みました。
二日目、三日目ぐらいから今まで見たことのない景色が広がってきて、ぼくの仲間も見なくなってきました。
心細くなってきましたが、勇気をふりしぼってさらに北に向かいました。ただ、前からの風が強くなってきて、思うように進めませんでした。
少し慣れてきたので、海の様子を見ながら進むと、ミラの仲間や、あなたたちの仲間が、あちこちにいるのがわかりました。
それで、のんびりしている集団に、けがをしているクジラを見たことないかと聞くようにしました。
それでも、まったく話してくれないのもいるし、知らないと答えるのもいましたが、『けがをしているやつを間にして、4,5頭で警戒しながら動いているグループがいた』と言うのがいました」
「ミラが誰かに助けてもらったのか」リゲルがつぶやいた。
「そうだと思います。しかし、あのあたりは、ミラの仲間とあなたの仲間がしばしば激しく戦うことがあるようで、そのときにけがをしたかもしれないと言っていましたが」と少し言いにくそうに言った。
「それはあるでしょうね」リゲルもそう答えざるをえなかった。「それはどこに向かったと言っていましたか?」
「ゆっくり進んでいたようですが、あまり気にかけなかったので、その後のことはわからないそうです」
リゲルはどう言ったらいいのかわからなかったが、「ミラはどうしてそんなに遠いところまで行ったんだろうな」先輩のカモメが言った。
「そうですね。どちらにしろそこを探さなくてはならないと思います。このあたりはほぼ探しましたから」
ベラやシリウスなども戻ってきたので、その話をすると、シーラじいさんの許可を得て、早くそこに行こうと言った。
シーラじいさんは信じられない様子だった。「アイスランドやグリーンランドいう大きな島があって、さらに向こうは北極圏のはずじゃ。
どんな場所かわしにはまったくわからぬ。アントニスが送ってくれた新聞記事には、最近は資源を求めて、そこらで各国がしのぎを削っているそうじゃ。
アメリアの船とチャイアの船が交戦したのも資源争いが原因じゃった。
そうじゃ!まずアントニスに今の様子を調べてもらおう。おまえたちも疲れている。
しばらく休め」シーラじいさんは、こうなったら、そこにいるはずがないと言っても、みんな納得しないじゃろと考えた。そこで、アントニスに手紙を書いた。

「なんだって!ミラが、グリーンランド沖で目撃されたのか」アントニスは叫んだ。
「見まちがいじゃないか」ダニエルがすぐに答えた。
「アイルランドから、まっすぐ北に進み、左に大きな陸があったと言っているようだ。つまりアイスランドだろう?そして、目の前にはさらに陸があったそうだから、つまりグリーンランドだろう?」アントニスは地図を示しながら説明した。「それにクジラの形とけがの場所が同じようなんだ」
「ミラだよ。ニンゲンに探してもらえばいいじゃないか!」イリアスも興奮した。

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