シーラじいさん見聞録

   

オリオンは、あの小さな鳥がうまくカモメに伝えてくれたか気になっていた。
しかし、冷静に考えてみれば、期待するほうがおかしいのだ。そう自分に言い聞かせて、他の方法を考えようと決めた。
深夜、寝ているとき、何かがいるような気がした。あたりを見渡した。天井からの薄暗い光と壁にある赤い非常灯が輝いているだけで、音一つしない。
しかし、かすかな風を感じる。しばらくすると、体に何かがとまったような気がした。すぐにピーピーという小さな声が聞こえた。
鳥か!まさか。ひょっとしてあの小鳥が来てくれたのか。
それは、目の前をゆっくり飛んでから、オリオンの顔にとまった
「来てくれたのか!誰かに言ってくれたか」と小さな声で聞いた。薄暗い場所でも、ぼくの姿はカメラが捉えているはずだ。もちろん、声も録音されているだろう。オリオンは、ゆっくり泳いでから、相手の反応を見た。小鳥は小さな声で鳴いた。
「そうか。それを教えに来てくれたのだな」小鳥は、また小さな声で鳴いた。
「もうすぐ海に連れていかれるようだ。そう伝えてくれないか」小鳥は、小さく鳴くとすぐに飛びたった。
まちがいない。仲間のカモメに伝わっているのだ。あの窓は小さくて、カモメには無理なのだろう。するとこの建物のどこかにいる。
カモメは、小鳥を使ってぼくの様子を調べにきたのだ。今度は、シーラじいさんやアントニスからの手紙を持ってきてくれるかもしれない。そう思うと、力が体にみなぎるのを感じた。
小鳥は、その建物を出て、すぐにカモメがいる場所に向かった。カモメは、すでに、小鳥とともにここまで来て、どの建物にオリオンがいるか確認した。それから、施設から離れた建物の屋上に待機していたのだ。
そこには、オリオンの仲間のカモメが3羽いた。そして、他のカモメは、2羽がシーラじいさんたち、2羽がアントニスを見守り、残りの3羽が、ここで仲間になったカモメに指示をするためにヨーロッパの空を飛びまわっていた。
しかし、オリオンが見つかったので、今度は全員ここに集まってくるだろう。
ただ、カモメがウイルス攻撃の中心的な役割をし、また敵国のスパイもしているとみなされているので、昼間の行動は避けたほうがいい。
「どうだった?」カモメが聞いた。
「ぼくのことをすぐにわかったようです。元気でした」
「何か言っていたか?」
「よくわからないのですが、近々何かあるような感じでした」
「何があるんだろう?」カモメはお互いを見た。
「ドーバー海峡にクラーケンが集まってきているのと関係があるはずだ」
「オリオンは、ニンゲンの言葉を話すために捕まっているのだから、そこに連れていくはずはない」
「いや、わざわざここに連れてこられたのは、何かさせられるはずだ」
「どうしようか」
「夜は、わしらで見張ろう。しかし、昼は、わしらは警戒されるので、何とか助けてくれないか」カモメは小鳥に聞いた。
「お安い御用です。あの建物のそばに大きな木があるので、そこにいれば見つかりませんから」
その日から、オリオンの体に何かつける作業がはじまった。
オリオンが、スタッフの話を漏らさず聞いていた。体内に大きな機器を入れれば、体に異常を来す恐れがあるし、また高い出力の機器は方向感覚が狂わせるかもしれないと考えているようだ。どれをとりつけるかの実験が連日行われた。
結局、体のどこかに目立たないものを張れば、その両方を回避できるという結論に達したようだ。オリオンは、作戦はまもなくはじまるように感じた。

リゲルたちは、ミラを先頭に西をめざした。徐々に警戒をするヘリコプターなどが少なくなり、穏やかな海がどこまでも広がっていた。
ミラは、リゲルに、「もう大丈夫だ。ここから北に行こう」と提案した。
リゲルは、「そうしよう」と決めた。
それを聞いていた若いシャチが、「このまままっすぐ行けば、どこへ行くのですか」と聞いた。
「アメリカだよ、アメリカ。クラーケンたちも押しかけているはずだから、たいへんなことになっているはずだ」リゲルは説明した。
「北に上げれば、オリオンがいるイギリスに近づく。パパが言っていたが、そこは、ぼくらが生まれたインド洋とはちがう海が広がっていて、ぼくらの仲間だけでなく、きみたちの仲間やオリオンの仲間もいるそうだ。
ぼくらは余所者(よそもの)だから、余り近づかないほうがいいようだ。でも、今はどうなっているかわからないが」
「オリオンを助けるまでは絶対気を緩めるな。さあ、行こう」リゲルは北に向かった。
ミラ、ベラ、シリウス、ペルセウス、そして、大勢の仲間も続いた。

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