シーラじいさん見聞録

   

離れていく親友の姿が滲んだ。自分のふがいなさへの悔し涙が溢れてきたのだ。
みんな、ぼくを助けようと苦労しているのに、ぼくは何もできない。
カモメは空を縦横無尽に飛びまわって、ぼくらを助けてくれているのに。捕まったりしていないのだろうか。
ぼくのために、何もかもが狂ってしまう。こうなったら、ぼくがニンゲンの注目を引きつけるしかない。オリオンは、今度の検査のとき、英語を話そうと思った。
翌日、オリオンは、検査をするプールに連れていかれた。
そこでは、英語でオリオンに話しかけていて、オリオンがどう反応するか、脳波などを調べるのだ。しかし、オリオンは、その反応を止めることができた。
最近では、イリアスという子供の話は信用できない。だいたいイルカの構造では発音することなどはできないのだという結論に固まりつつあった。
3人のニンゲンが入ってきた。いつも、オリオンを調べている。動物学者、医学者、海洋学者などがいると、シーラじいさんは言っていた。
しかし、今日は、研究の準備がされていない。
「オリオンくん、朗報だよ」一人が声をかけてきた。オリオンは、いつものように、一人で深海にいるように振舞った。
「ところで、リゲル、ミラ、ペルセウスが帰ってきたそうだよ」と声をかけてきた。
「みんな、友だちかい?攻撃隊長でもしているのかね」別のニンゲンが言った。
「しかし、子供がオリオンという名前をつけたものと思っていたが、きみだけじゃなく、友だちにも名前があるとはな。しかもロマンチックな名前ばかりじゃないか」さらに別のニンゲンが言った。
「きみの国は高度な文明があるようだな。しかも、言葉だけじゃなくて、人間の文明についても精通している」
「しかも、カモメまで仲間とはな。おれたち人間をどうするつもりなんだ。人間を滅ぼしても、陸には住めないぞ」
オリオンは、返事をしようと思った。しかし、ニンゲンは続けた。
「このまま研究を続けて、世界的な発見をしたいところだが、命令で、きみを手放さなければならなくなったのはとても残念だ。
ヨーロッパで、きみのお友だちが大暴れだ。お友だちもきみに会いたがっているだろう。今度は、少々手荒なことをされるかもしれないが、元気でいてくれよ」3人は出ていった。
そうだったのか。それなら、今、英語を話しても意味がない。オリオンは、何もわからないようにゆっくり泳いだ。
6羽のカモメが、研究所の空高く飛びまわって、様子をうかがっていた。今は警戒されているので、建物に近づくと撃たれることもあるかもしれないからだ。
オリオンが、ヨーロッパに連れていくと言われた夜、動きがあった。夜遅くトラックが3台入ってきたのだ。
車の出入りは毎日あるが、深夜に来ることは初めてなのだ。「アントニスに連絡してくる」1羽が飛びたった。
アントニスは、ベラから、「手紙 見つかる」という手紙をもらってから、ずっと心配していた。
「もし何かあればすぐ動く」という返事をベラに書き、アレクシオスにも電話をした。
「まずいことになったな」アレクシオスは心配した。
「これで、オリオンが英語を読むことができ、しかも、大勢の仲間がいるというとがわかってしまったんだな」
「それと、研究所では、オリオンはクラーケンの一味だと思うだろうな」
「そうだろう」
「これで、オリオンに何か動きがあると思う。そこで、チャンスがあるかどうか」
「何かあると、すぐに連絡をしてくれるだろう」
「すぐに教えてくれ。こちらも気をつけておくから」
アントニスは、窓を叩く音で起きた。いつもより激しい音だ。窓を開けた。カモメは焦っているようにみえた。手紙は持っていない。
「オリオンに何かあったのだな」お互い言葉はわからないが、大体のことはわかるようになっていた。カモメはうなずいた。
「どこかに連れていかれそうか」カモメはまたうなずいた。
「よし、了解した。どこに行くか見ておいてくれ」
カモメは飛びたった。アレクシオスは、朝一番にアレクシオスに連絡をしようと思った。
トラックは、オリオンがいる建物に入っていった。1時間後、3台のトラックで出ていった。
カモメは、残っている6羽全員でトラックを追いかけた。
4羽は仲間を集めるためにヨーロッパに行っていた。新聞や雑誌の記事から、クラーケンはヨーロッパに出没しているので、オリオンが連れていかれるとしたら、ヨーロッパにちがいないという判断をしたのだ。
トラックは、やはり飛行場に向かった。1台のトラックからタンクが飛行機に積まれた。
すでに飛ぶ準備をしていた飛行機は飛びたった。
北の方角だ。これは予想どおりヨーロッパにちがいない。しかし、その先はわからない。
カモメはベラを探した。まだ暗い。カモメは全員で鳴いた。それを聞きつけたリゲルたちが集まってきた。
リゲルは、回復したようで、「わかりました。シーラじいさんに連絡します」と言った。
ベラもついていった。アントニスに連絡をしなければならないからだ。
しばらくして、2人は戻ってきた。そして、ベラは急いで作った手紙を、カモメに託した。
カモメは、アントニスの家に急いだ。

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