シーラじいさん見聞録

   

「シーラじいさん、それでは出発します」リゲルは言った。
「気をつけていけよ。おまえたちは、今から未知の世界に向かうことになる。
しかし、恐れる必要はない。未知の世界でも、今までの経験が役に立つ場合と立たない場合があることを冷静に見極めることじゃ。それが、成功か失敗かを分ける。わしも後から行く」全員、シーラじいさんの言葉を真剣な表情で聞いていた。
そして、シーラじいさんに見送られて動きだした。
ペルセウスだけが海面近くを進み、カモメから報告を受けたり、あるいは、リゲルたちの指示を伝えたりすることになった。また、リゲルたちが呼吸をするために海面に上がるときの手助けをした。
シーラじいさんは、アラビア半島を少し入った場所にいてくれたので、すぐ右に曲がと、紅海に入ることができた。ぞして、そのまま互いに合図をすることなく進んだ。
海底近くを、しかも、両岸の真ん中近くを、1時間ほど進んだ。何事も起こらない。先頭に立っていたリゲルが速度を落とした。オリオンたちも徐々に止まった。
リゲルたちは、何事もなければ、1時間ほど進んだときに、ペルセウスから報告を受けるようにしていたのだ。
ペルセウスが来るまで、小さな声で話しあった。
「予想以上に深いな」誰かが言った。
「これなら、ぼくらがいる海と変わらないじゃないか」
「でも、幅はあまりないようよ。海底が、両岸に向かって徐々に上りになっているもの」
「それじゃ、このまま狭まっていくのか?」、
「いや、そうでもないようだ。これから、もっと幅がある場所があると聞いている」
そのとき、ペルセウスが帰ってきた。
「今のところ海面及び両岸には、特別危険な兆候はない。大きな船は頻繁に行き来している。もちろん、スエズ運河を通過してきたか、あるいは目指しているのだ。
ただ、それを守るためか、クラーケンを攻撃する兵器を積んだ船も見かける。カモメによれば、数日前より増えているということだ」ペルセウスは緊張して奉告した。
「なるほど。人間は、どんなことが起きても、スエズ運河だけは守りたいはずだ。ペルシャ湾で取れる原油もここを通るのだ」リゲルが解説した。
「それから、岸の近くには、さんご礁がある。海はとれもきれい。それだから、見つかる可能性も高いかもしれないが」
「それじゃ、順番にペルセウスの後に続いて上がれ。そして、そのまま進め。また、1時間して報告を受ける」リゲルが、呼吸をした後、すぐに動くように言った。
彼らは、休むことなく進んだ。今のところ、何事もなかった。監視システムをうまく潜りぬけることができたのだ。
数日後、ペルセウスが報告した。「そろそろ紅海は終わり、いよいよスエズ運河に入る。
気をつけなくてはならないのは、海は分かれるが、左のほうの海がスエズ運河だ。
カモメの話では、そこから狭くなっているようだ。そして、スエズ運河はもっと狭い」
「シーラじいさんが言っていたように、もともと地割れにニンゲンが手を加えたようだから、紅海のような深さはないだろうな」
「ここからは、ぼくとオリオンが先頭を行く。そして、ミラが、その後で、最後は、シリウスとベラだ。そして、遠くからの合図は絶対しないこと」
「それなら、スエズ運河に入る合図はどうするのだ?」
「入り口付近には、監視システムがあると思うから、紅海の突きあたりを、進む順番に上がる。
そして、向こうからの船がいなくなり、こちらからの船が動きだす寸前に、一気にスエズ運河に飛びこむ。たとえ何かがいたとわかっても、入ってしまえば、こっちのものだ」
ペルセウスは、上に向かい、海面から頭を出して、その瞬間を待った。
夕焼けが終わりはじめていた。海面が赤く染まっていた。もう少しで暗くなるだろう。
待機している船が暗くなりつつあった。
カモメが下りてきて、「向こうの船は、後2隻です」と報告した。
「了解。それが通過したら、すぐにスエズ運河に入る」ペルセウスはカモメに言った。
一隻が通った。しばらくして、もう一隻が近づいてきた。「よし」ペルセウスが急いで下に行き、「今だ」と叫んだ。
リゲルとオリオンは、一気に上に向かった。確かに、どんどん上に上がる。
しかし、スエズ運河はあらわれない。ペルセウスが、スエズ運河の手前は二つに分かれていると言っていたが、まちがいないか。
そのとき、ペルセウスが、「ここだ!」と叫んだ。ます、リゲルが入った。そして、オリオン、ミラ、ベラが、穴にとしか思えない場所に飛びこんだ。
ペルセウスは、そこに留まり、何か変化がないか背後の様子を見た。しかし、急いでこちらに来るものはない。
リゲルたちは、スエズ運河があまりに浅く、幅がないことに不安をおぼえた。進んだときの波が帰ってくるのだ。ミラは大丈夫だろうか。ときおり振りかえってミラを見た。
ミラの影は、スムーズに動いているようだ。シーラじいさんが言っていたように、途中何ヶ所か同時に双方が動ける場所があるようだから、そこで、少し休息しながら、今後の作戦を確認しよう。
ペルセウスが、みんなの間を潜りぬけてやってきた。リゲルは、その場所を教えてくれるように言った。ペルセウスは、上空にいるカモメに伝えた。
しばらくして、ペルセウスが戻ってきた。「今入りました。しかし、出口のほうに、4,5隻の船が、こちらを向いているようです!」
「えっ、まちがいじゃないのか」オリオンが聞いた。
「ぼくも、そう聞きましたがまちがいじゃないそうです。仲間のカモメがその船にいるそうですから」ペルセウスが言った。
「気づかれているのだ!」シリウスが叫んだ。

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