シーラじいさん見聞録

   

「はい」ベラは緊張しながら答えた。
「どうして一人でいるんだ?」一人が聞いた。
「パパとママが認めた許婚(いいなずけ)が、どうしても行くと聞かなかったので、毎日泣いて暮らしていました。
これじゃいけないと思い、自分にも何かできないかと考えるようになりました。
それで、彼が向かった場所に行けば、会えるかもしれないと、思いきって来ました。
それに、みんなが言っていたことを自分の目で確かめたいという思いもありました」
「そうか。おれたちも、恋人を残してきたからなあ」4頭全員しんみりした顔になった。
「親兄弟は心配しなかったのか」一人が聞いた。
「黙って出てきました」
ベラは、「海の中の海」に入ったときのことを思いだしながら、話を作った。
確かにパパは、「おまえが男ならばなあ」と毎日言っていたものだ。そして、「海の中の海」に行きたいと言ったときも、反対をしながらも、どこか喜んでいたようだった。
シャチはお互いの顔を見た。
「それなら、おれたちの仲間になれよ。一人でいては危険だ。まして女はな」
「それで、どこにも行かずにここにいるのですか」ベラは聞いた。
「そういうわけじゃないんだ」別のものがあわてて答えた。
「おれたちに怖いものはないことは、おまえも知っているだろう。でも、仲間が大勢死んだので、闇雲に行くなと言われているんだ。それで、一斉攻撃の指示を待っている」
「誰が指示を出しているのですか」
「おまえは見たことないものだ。おれたちでも怯(ひる)むぐらい大きい。クジラなんかは怖くはないが、一齧りされると動けなくなるほどの歯を持っている。
いつもは海底の国にいるそうだが、自分たちで海を守らなければ、おれたちは全滅してしまうと言っていた。それに共感したものが集まっているというわけさ」
「彼もそう言っていました」
「そうだろう。大勢で世界中を回っているそうだから、俺たちでも1回しか会っていない。おまえをみんなに紹介する。みんな喜ぶぞ」別のシャチが言った。
ベラは覚悟を決めてついていった。
オリオンは、ヘリコプターの動きを見ていた。しばらく低空飛行をしたかと思うと、一気に方向転換をして、どこかへ行くことがある。それを何回も繰りかえしている。
なぜそんなことをしているのだろう。みんなの情報を知るために、集合場所に戻ることにした。
ミラとペルセウスも戻っていた。そして、2人が仕掛けた囮(おとり)作戦について話した。
「そうか、わかったぞ。ヘリコプターとセンスイカンが連絡を取りあっているのだ。
それで、潜っていても、海面にいても、すぐに見つけるのだ」オリオンは叫んだ。
しばらくすると、シリウスが帰ってきた。そして、同じ仲間のイルカの集団にもぐりこんだことを話した。
クジラやシャチが防御を破り、ニンゲンに好かれている自分たちが、ニンゲンを襲うことになっていること、また、カモメが、防御が手薄になっている場所を調べていることなどを報告した。
「両方の話を聞くと、クラーケンの部下が作戦を仕切っているのはまちがいないな」オリオンは断定した。
ちょうど帰ってきたカモメにも、そのことを話した。
「そうじゃないかと思っていましたよ。海のそばを飛んで、何かを探っている集団があちこちいますからね」カモメは驚きもしないで答えた。
ベラが帰ってくれば、なるべく早く行動を起こそう。全員そう思った。
翌日ベラが帰ってきた。みんな話を聞いて、よく入れたものだと感心した。
「女だからよ」ベラは平然と答えた。
「海底にいる怪物が、指令を出すと言っていた。クラーケンの部下にちがいないわ。それに、スエズ運河のことも知っているようよ。そこを通過してから、まっすぐ行く。大きな海に出たところで、右に曲がるものと、まっすぐ行くものに分かれる。どちらにも、ニンゲンが多く住んでいる場所があると話していたのが聞こえたわ。
それから、クラーケンの部下は、人間が一番住んでいる場所では前面に立つらしい。
いっしょについてくれば、彼に会えるかも知れないと言っていたので、ぜひお願いしますと答えたわ」
「どういうこと?」ペルセウスが聞いた。
「彼を探しに一人で来たと言っていたの」ベラは笑顔で言った。
オリオンは黙って考えていた。早く行かなければ、ソフィア共和国には行けない。もし行けても、手紙を渡しことができない。どうしたらいいのだろう。
「みんな、聞いてくれ。このままだと、クラーケンの部下に先回りされてしまう。
それは危険すぎるということだけでなく、手紙を渡すという目的も達成できないかもしれない。
スエズ運河を通過するのをあきらめて、東へ向かおう。そこなら、海のものは少ない。
つまり、警戒も少なくなっているはずだ。そして、航行している船にいるニンゲン、ぼくが話しかける。手紙も受けとってくれるだろう」
他のものじっと考えた。そして、ミラが話しはじめた。
「それはやめるべきだ。ニンゲンは神経質になっているはずだ。きみ一人が近づいても、ニンゲンは警戒して、きみを狙ってくるかもしれない。
きみは自由に動けないし、たとえぼくに使われたような麻酔銃でも、当たり所が悪いと命にかかわる。ぼくらが横にいると、もっときみは危険にさらされる。そうなれば、海底にいるニンゲンは、二度と陸に戻れないだろう」

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