シーラじいさん見聞録

   

「ぼくもそう思うよ、オリオン。海底のニンゲンは今まで何とか生きのびてきたんだ。
しかも、リゲルは、少し時間がかかるかもしれないが、必ず手紙を渡すと、わざわざ言いに戻ったじゃないか。
もう少し様子を見て、まちがいなく手紙を渡す方法を考えようよ」ペルセウスも、オリオンを諭すように言った。
「東に行けば、スエズ運河からどんどん離れていくよ」シリウスも、心配そうに言った。
「きっといい方法が見つかるはずよ」ベラも、オリオンを励ました。
オリオンは、みんなの考えを聞いていた。そして、「ぼくがまちがっていた。早く、早くと思うと、あせってしまった」とすまなそうに言った。
ミラは、「ます今の状況を整理しよう」と言った。
「ソフィア共和国に行くのは、スエズ運河を越す方法と、アフリカ大陸を回る方法があるとシーラじいさんは言っていた。
しかし、アフリカ大陸を回るのは、スエズ運河を通るより5倍の距離だということだった。当然、船はスエズ運河を通る。だから、クラーケンたちも、スエズ運河のほうに集まる」
「しかも、クラーケンたちの総攻撃は、もうすぐ始まる」ベラも言った。
なるべく危険が少ない方法で、しかも、急がなければならない。みんな黙って考えた。
しばらくして、オリオンが大きな声を出した。
「それなら、アフリカ大陸に沿って紅海に入ることはできないか?」
「ということは?」ミラが聞いた。
「アフリカ大陸のほうに船が少ないのなら、クラーケンたちも少ないし、当然、ニンゲンの監視も少ないはずだ。
もちろん、紅海付近は警戒が厳しいだろうが、クラーケンの動きに気を取られて、反対側の監視が手薄になるはずだ。そのとき紅海に入る」
オリオンの作戦を聞いて、みんなの顔が輝いた。「そうか!」「それはいい!」と叫んだ。
「それなら、ぼくにいい考えがある」ペルセウスが言った。
「きみらは、監視レーダーに引っかかる。しかし、ぼくは大丈夫だ。だから、ぼくがまっすぐ紅海に向かう。きみらが来る間に、紅海付近の様子を調べておく」
「わたしたちも、いい考えがあります」カモメが言った。リーダーの主人だ。
「わたしたちも、オリオンたちとペルセウスのそれぞれについていきます。そうすれば、あなたたちは迷うこともなく、また、行き違いになることもなく、攻撃がはじまる前に紅海に入れます」
「それはありがたい。南に行きすぎると、紅海まで時間がかかるし、肝心の紅海付近の様子を事前に知っておいたほうが危険を避けることができる」
オリオンは、みんなの力が合わさり、どんな困難も跳ねかえす強さになったのを感じた。
「アフリカ大陸が見えてくれば、紅海の手前まで斜めに進もう。紅海はアラビア半島の左にあるから、そう遠くない。
ペルセウスは、ぼくらより早くそこに着くはずだから、様子を調べたら、その付近にいてくれないか」
「了解」ペルセウスは大きな声で答えた。みんなのエネルギーが一つになり、進みはじめたのだ。「よし、行こう」みんなは叫び、それぞれの方角をめざした。
オリオンたちは急ぎに急いだ。リーダーの主人を含めた7羽のカモメがオリオンたちの上空を同行した。
5日間休まずに泳ぎつづけた。クラーケンたちを出しぬきたいという思いが、体力の限界を忘れさせたようだった。
ペルセウスは、カモメ3羽とともに、まっすぐ紅海をめざした。
相変わらず、10頭、20頭という集団が動いているのを見た。ほとんどが北の方向に進んでいるので、作戦に好都合だ。しかも、あの動きからは、まだ攻撃命令は出ていないようだ。ペルセウスは、カモメの情報を得ながら、さらに集団の動きを探ることにした。
その結果、どの集団もある程度行くと、急に速度を落とすことがわかった。
これ以上陸に近づくと、警戒がさらに厳しくなるという情報がゆきわたっているようだ。
すると、このあたりにクラーケンの部下がいるということだろうか。
ベラの話では、紅海を過ぎてから、クラーケンは攻撃の前面に出るらしいが、その準備をここでしているのかもしれない。
オリオンは、これから気を緩めることができなくなるので、今のうちに休むように忠告した。疲れが残っていると、一瞬の判断が狂うことがあるからだ。
そして、「どうやら遠くに陸のようなものが見えます」カモメが下りてきて報告した。
「わかりました。ここでもう一度今後のことを確認します」
みんなオリオンのまわりに集まった。
「ようやくアフリカ大陸が見るところまで来た。ここから、北西に向かう。
そして、紅海の手前で、ペルセウスと合流して、一気に紅海に入る。
紅海に近づけば近づくほど、ニンゲンの警戒は厳しくなるはずだ。もし、センスイカンやクラーケンたちに追われたら、あわてることなくアフリカ大陸のほうに戻ること。敵が少ないし、みんなで応戦できる」
それを聞いて、いよいよ作戦がはじまるのだという思いが、みんなの体を走った。
「みんな、絶対離れるな」オリオンは叫んだ。まず、ミラが先頭に立った。
そのあとに、オリオン、シリウス、ベラ、ペルセウスが続いた。上空は7羽のカモメだ。、
やはり集団の気配はなかったが、ときおり黒い影が見えた。あれはクジラの動きではない。それなら、センスイカンか。ミラも、もし仲間がいたら、作戦に支障が出るので、近づかないようにした。
2日目、オリオンは、アフリカ大陸がはっきり見えてきたという方向を受けて、もっと接近することにした。
そして、仲間のカモメを見つけるように言った。つまり、ペルセウスが近くにいないかということだ。ペルセウスと合流したら、一気に紅海をめざす。

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