シーラじいさん見聞録

   

「シーラじいさん、すぐに行くことにします。リゲルが戻ってくるまで、ここで待っていてくれませんか」オリオンは、シーラじいさんのほうを向いて言った。
シーラじいさんは、オリオンの眼をじっと見た。「そうしなさい。おまえたちが一つになったことはわかった。
大勢のカモメが助けてくれることは心強い。ニンゲンとクラーケンの攻防が激しくなるにつれて、予測ができないことが増えてくるじゃろからな。
何が起きようと、決して離れないこと。そして、できるならば、先々で味方を探すこと。この二つを忘れないようにすると、苦境を乗りこえることができるやも知れぬ。そして、進退窮まれば、リゲルを待つことじゃ」
オリオンたちはうなずいた。
そして、シーラじいさんは、海や大陸につい説明した後、自分たちは今どこいるか、そして、旧ソフィア共和国へはどう行くかを話した。
「わしらの故郷というべきインド洋は、ユーラシア大陸とアフリカ大陸の間にあるが、二つの大陸の間にアラビア半島がある。右はアラビア海で、左は紅海と言われている。
左側の紅海の中を進め。奥に行くと、スエズ運河という海峡がある。そこは、ニンゲンがヨーロッパという地域と行き来をするために広くした海じゃ。
そこを越すと、地中海という海に出る。島が散在していて、そう広くはない。そこを左に進むとユーラシア大陸が終る。そこを右に回れ。そして、大陸に沿って行くと、バルト海という海に入る。右側に旧ソフィア共和国の一員だった国がある。
旧ソフィア共和国は、何十という国に分かれたそうじゃが、バルト海に面した国の名前はわからぬ。
わしの知識はそれくらいじゃが、それが最短の道であるのはまちがいない。
しかし、大陸に近づくほど、警戒はきつくなっているじゃろから、よほど気をつけて行かないと、向こうには着けない」
「他の行き方はないのですか?」オリオンが聞いた。
「先ほど言ったアフリカ大陸を回って、ユーラシア大陸に行くこともできるが、スエズ運河を通るより5倍の距離があると言われている。
スエズ運河は、2,300メートルほどの幅しかないと聞いているから、大きな危険が待ちかまえているかも知れぬ。
しかし、アフリカ大陸を回るとなると、おまえたちの体力が心配じゃ」シーラじいさんは黙った。
「なんとしても、スエズ運河を通りぬけるようにします」オリオンは強い口調で言った。
「どんなときでも1等星の下に集まるようにせよ。リゲルもわしも、それを目標にして追いかける」
「わかりました。それじゃ行ってきます」そして、「よし行こう」とみんなに声をかけた。
「みなさん、頼みましたぞ」シーラじいさんは、カモメに向かって大きな声で言った。
カモメは承諾の声を上げた。ミラやペルセウス、シリウス、ベラは、武者震いのように大きく跳ねた。
カモメは、やはり「男連中」がオリオンたちについていくようだ。前にいた男たちだけが飛びだした。リーダーたちも高く飛びあがった。
オリオンたちは、北西方向に進んだ。そして、大陸が見えるまで休むことなく進むことに決めた。
カモメも、必死でついてきた。いや、風の向きによってはカモメについていくこともあった。
しかし、何事も起きない。全く静かだ。リーダーが言ったように、また新聞に書いてあったように、あのようなことがほんとに起きているのか信じられなかった。
ある日、リーダーの主人が急降下してきた。そして、「あちこちで、あなたたちと同じようなグループがいます」と報告した。
「どんな様子ですか?」オリオンは、止まって聞いた。
「前にいるグループほど速度は遅くなっているような気がします。あとのグループに追いつかれて、数百頭と集まっていることもあります」
「大陸に近づいてきたのですか」
「ここからは何も見えません。今、若いものが先に行っていますので、何かわかるかもしれません」
とりあえずそのまま行くことにした。しかし、カモメが前方に何かいることを知らせると、それを避けるように進んだ。
数日後、偵察に行っていたカモメが帰ってきた。
「遥か先に大陸のようなものが見えます。確かめようと思ったのですが、あちこちに騒がしいものが飛んでいるので、近づくことをあきらめました。
あれは苦手です。うるさいだけでなく、あまり近づくと、体がおかしくなって飛べなくなります」
「ヘリコプターのことですね」
「ヘリコプターと言うのですか。今までも見たことがありますが、あんなに多く、あんなに海すれすれを飛んでいるは見たことがありません。
少し先に何か浮かんでいたのですが、またもやヘリコプターが近づいてきて、確認できませんでした。遠くから見たところ、ミラのような大きなものが浮いているのです。
ヘリコプターは何をしていたのですか?」
「多分、海のものが、船などに近づこうとしていないか調べているのでしょう」
「死んだものは、ニンゲンに攻撃されたのですね」
「多分そうでしょう。シーラじいさんは、今は殺さないようにしていると言っていましたが、なぜそうなったのかはわかりません」
オリオンは、カモメに、できるだけわかりやすく説明した。できるだけ深く見てもらいためだ。
そのとき、少し先を調べていたミラが帰ってきた。そして、「どうもセンスイカンが増えてきたようだ」と報告した。
「やはりそうか。カモメが遠くに陸地が見えるようだと教えてくれたんだ。また、海のものが相当数集まっているようだから、警戒が厳しくなっているらしい」
「これから、どうしよう?」
ちょうどペルセウスやシリウス、ベラが戻ってきたので、今後のことを話しあうことにした。

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