シーラじいさん見聞録

   

声のほうを見上げようとすると、目の端に白いものがサッと走った。
カモメだ。4羽いる。オリオンは、あのカモメかと思ったが、どれも少し顔つきがちがうようだ。
オリオンが戸惑っていると、「オリオンだよね?」さっきと同じ声が聞いた。
「そうです。オリオンです」
「よかった。わたしたちは、ずっとあなたのことを探していたのよ」甲高い声で言った。
「リーダーから、世界を救うのはあなたしかいないと聞かされていたので、手分けして探していたの」別のカモメが割りこんできた。
「背中の特長を聞いていたけど、あなたたちのようなグループがあちこちにいるものだから、近づいて見ては、ちがうわということばっかり」また別のカモメが叫んだ。
「リーダーとは誰ですか?」オリオンが聞いた。
「以前からあなたと知りあいのカモメよ。リーダーに賛同したものが一つにまとまって、大きな組織になっているのよ」最後のカモメも声を出した。
「そうでしたか。黙ったまま遠くに行っていたものですから。しかし、そんなにひどいことになっているのですか?」
「ひどいってものじゃないわ。このままなら、この世の終わりがすぐそこにあるわ」
「そうよ。あんな光景を見たら、そう思うわね」
「あなたたちのように、海にいるものが、次から次へとニンゲンが乗る船にぶつかっていくのよ。
以前は、小さな船をひっくりかえして、落ちてきたニンゲンを襲うこともあったけど、最近は、小さな船はほとんどいない。しかも、数隻の船で動いている。
ニンゲンは、海のものが近づいたら、すぐに撃つの。それに当たると、どんな大きなものも苦しんで死ぬ。それなのに、何かに取りつかれたように向かっていく」
「わたしたちは、青い海の上を飛びまわるのが、なにより喜びなのに、今は、血に染まった赤い海を見ない日はないわ」
「それに、わたしたちの仲間にも、その手下になっているものいるのよ」
「ニンゲンの船がどこにいるか知らせているようよ」
「ニンゲンは、それがわかったようで、今までは、疲れると船で休んだのに、わたしたちを見ると、追いはらうとするの」
「早くこの海を救ってちょうだい」
「あなたたち、ちょっと待って。勝手にしゃべるだけでは、オリオンが迷惑するだけでしょ」最初のカモメがみんなを制した。
それから、オリオンのほうを向いて言った。
「リーダーを呼んでくるから、このあたりで待っていてくれない。わたしたちもできるだけのことをするつもりだから、リーダーと話しあってほしいの」
オリオンが、「わかりました」と答えたとたん、カモメたちは飛んでいった。
「ミラが攻撃されたのは特別のことはないのだな」リゲルが言った。
「益々ひどくなっているようだ」ミラも顔をしかめた。
「手紙を渡すためにはどうしたらいいのだろう」オリオンが苦しそうに言うと、ペルセウスや、シリウス、ベラも考えこんだ。
「時間がかかりそうだ」リゲルは、そう言うと黙った。しかし、すぐに大きな声を出した。「オリオン、カモメが来る間、ぼくが海底のニンゲンに、今の状況を話してくる。そこで、ニンゲンの言葉を教えてくれないか」
「それはいい。ぼくも、それを考えていた。ニンゲンは、あれほどぼくらの帰りを待っているのだから」オリオンも、すぐに賛成した。
それから、少し考えてから、リゲルに言った。「じゃ、おぼえてくれ。『ニンゲンと海のものとの戦いは激しさを増していますが、必ず手紙を渡します』」
リゲルは、一心不乱に練習した。そして、みんなに言った。
「シーラじいさんはすぐ来るだろうから、今までのことを全部伝えてくれ。
そして、カモメの話を聞いて、すぐに行かなくてはならないのなら、ぼくが帰ってこなくとも、そのようにしてくれ。シーラじいさんが待っていてくれるだろうから」
「ミラの状態があるが、そうするかもしれない」オリオンは、リゲルの気持ちがわかった。
「ぼくは大丈夫だ。いつでも動ける」ミラが言った。
「ぼくも行こうか」ペルセウスが言った。
「いや、一人で行く。早く帰ってきて、すぐに追いつくから。それまで、みんなで頼む」そう言うと、リガルは姿を消した。
翌日、シーラじいさんが着いた。オリオンたちは、今までのことを残さず話した。
シーラじいさんは、いつものようにじっと聞いていたが、「これからは、カモメの力もいるようじゃ」と言った。
そのとき、遠くの空が、夕立雲かと思うほど暗いものが見えた。それが、どんどんこちらに向かってくる。
オリオンたちは、それが何かわかった。みんな、「すごい数じゃないか」シリウスが叫んで、ジャンプした。
雲は近づくと、どんどん下りてきた。それにつれて、けたたましい鳴き声が響いた。数千羽はいるようだ。
やがて、カモメたちは、オリオンたちの前に、ものすごい風とともに下りてきた。
すぐに1羽のカモメが前に出てきた。オリオンは、あのカモメだということがすぐにわかった。
何か言っているが、聞こえない。カモメは、後ろを向いて、「みんな静かにしてちょうだい」と叫んだ。すると、たちまち静かになった。ものすごく統制が取れている。
「心配したわ」そのカモメは、鳴きそうな顔で言った。
「申しわけありません。海底にクラーケンがいるかもしれない場所を見つけたのです。
そして、そこにニンゲンがいました」

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